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北京を訪れて分かった「中国はいま開戦前夜の真っ只中」という現実

彼らはどうやら本気のようだ
近藤 大介 プロフィール

ところが、習近平主席がなぜそこまで我慢したかと言えば、「小事を忍ばねば大禍に乱れる」という帝王学を実践したからに他ならない。すなわち、昨年10月の第19回共産党大会と、今年3月(5日~20日)の全国人民代表大会を、波風立てずに開催するためである。

この二つの重要会議で採択されたのは、一言で言えば、中国は今後、「習近平の強国」に生まれ変わるということだった。

1978年から現在まで、鄧小平が主導した「改革開放の時代」が40年続いた。自国の経済発展のために外資を呼び込み、外国に中国製品を売っていく「世界と協調する時代」である。

ところが、中国式に言えば、「パンダは竜に生まれ変わった」。今後は「プーチンのロシア」のような、「習近平の中国」を作っていくのだ。太平洋の向こうのトランプ大統領が「アメリカ・ファースト」を標榜するように、習近平主席も「中国第一」を貫いていくのである。

そんな「生まれ変わった中国」が出帆した時に、アメリカから貿易戦争を仕掛けられた。となれば、当然ながら中国は「奉陪到底!」と凄んで、受けて立つまでなのである。

北京で痛感したが、アメリカから宣戦布告されたことによって、習近平政権の求心力がものすごく強まった。トランプ大統領は、貿易戦争の布告によって、自国の経済を弱らせ、かつ世界ナンバー2の中国のパワーと結束を強めてしまったのだから、皮肉なものだ。

WTOのレッドラインを突破するアプローチ

現在、北京でアメリカとの貿易戦争を主導しているカリスマ教授がいる。崔凡・対外経済貿易大学国際経済貿易学院教授である。崔教授の主張は、次のようなものだ。

「中国は、2001年12月にWTO(世界貿易機関)に加盟して以降、基本的にWTOルールを、十分に履行している。2004年に新外国貿易法を施行し、証券会社の外資持ち株3分の1を、2年前倒しで実現した。WTOと約束した平均関税9.8%も、自主的にどんどん実現していった。

2011年には加盟10年を記念して、国務院新聞弁公室が初めて、対外貿易の状況を示した白書を発布した。中国がWTO加盟から10年できちんとルールを履行していることを、一つ一つ明示したのだ。

2014年には、国務院弁公庁が『さらに貿易政策を規則に合致させるための通知』(第29号文件)を発布した。

WTOは中国、アメリカ、EU、日本の4大貿易国・地域に対して、2年に一度、評価報告を行っている。他の加盟国・地域は4年毎、6年毎などで、4大貿易国・地域も2019年からは、3年毎になる。

 

2016年の評価報告で、中国は1800点あまりの指摘を受けた。それに対して中国は、一つ一つ回答している。そうした記録はすべて、WTOのHPで公開されている。

https://www.wto.org/english/res_e/booksp_e/world_trade_report17_e.pdf

ただし、WTOもカバーしきれていない部分も存在する。一つは、サービス業に関する規則が乏しいことだ。もう一つは、先進国が参加している政府調達の分野に、中国が参加していないことだ。

そのため、他国は中国の貿易障壁は依然として高いという。金融分野での障壁は、主要経済国・地域では2位、総合的には4位である。それでもこの2年でずいぶんと開放を進めており、中国の開放度は中程度の国・地域レベルに改善された。

原則的に、政府は市場に干渉すべきではない。もし市場自身で解決できない問題が生じた時に、政府が干渉する。その際には、政府は最良でかつ最も副作用が少ない方法を用いるべきだ。

だがトランプ政権が行っているニュー・アプローチは、WTOのレッドラインを突破するどころか、多国間の貿易システム自体を放棄しようとしている。

通商301条は1974年に始まり、これまで125回、発動されてきた。1995年にWTOが設立される以前が97回、以後が28回だ。そもそも301条の方式自体が、WTOの規則と合わないのだ。

今回アメリカが持ち出した301条に基づく調査には、3つの特徴がある。第一に、貿易格差の問題ではなく技術的な問題ばかり指摘している。つまり次世代技術が中国主導になっていくことを恐れているのだ。

第二に、中国政府がアメリカの技術を損ねているという図式を作っている。第三に、アメリカの指摘は、ほとんどWTOなど国際機関のルールに関して中国が違反していない部分で主張しているということだ。

2001年に中国がWTOに加盟して以降、中国は40回訴えられているが、アメリカは2倍の80回訴えられている。WTOが発足した1995年から数えれば、136回にもなる。WTOの規則に照らし合わせれば、中国の方がアメリカよりも、はるかに優等生なのである。

中国への技術移転の強制の問題は、中国企業が外国に投資したり外国企業と契約を交わす際、中国企業への技術移転を要求するケースは、たしかにある。だがそれはあくまでも、法律や規則の範囲内での正当な要求であって、中国政府にはこうした動きを禁止する権利はない」

以上である。

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