古典

「古典は売れる」…いま『資本論』『幸福について』を漫画にする理由

「まんが学術文庫」創刊秘話

4月11日、哲学や文学をはじめとし名著を漫画化した新シリーズ・講談社まんが学術文庫が創刊され、話題となっている。「難解な名著、漫画でわかりやすく」をテーマに掲げるこのシリーズ。第一弾として、『幸福について』『罪と罰』『歎異抄』『資本論』『政談』『恋愛と贅沢と資本主義』の6タイトルが出版された(https://man-gaku.com/)。

なぜいま「名著の漫画化」なのか。仕掛け人であるまんが学術文庫編集チームの石井徹編集長が、狙いを語った。『鉄拳チンミ』『風のシルフィード』『名門!第三野球部』などの名作を続々輩出した漫画編集者・石井氏の勝算とは――。

「古典は売れる」

なぜいま、古典をはじめとする名著を漫画化するのか。不思議に思われる方もいらっしゃるでしょう。

決して思い付きで始めたわけではありません。

きっかけは昨年の2月のことでした。営業担当の役員から、「『カラマーゾフの兄弟』を漫画にできないかな」と訊ねられたんです。「古典は難解だからと敬遠している人や、挫折した人は多いけど、みんな、一度は読んでみたいという欲求があるはず。漫画で分かりやすく書かれたものなら、読むんじゃないか」というひらめきがあったようです。

その話を聞いた時は、「いやあ、難しいでしょうねえ」と答えたのですが、よくよく考えてみたら、私自身、古典に挑んで挫折した経験があったし、分かりやすく名著を読めるならもう一度読んでみたい、という欲求があることに気づきました。

また、私はかれこれ漫画編集に30年も携わっていますが、ドストエフスキーのような、小説といえども論文のような難解な本を漫画にするというチャレンジは、やりがいがあるな、と思いました。

石井徹編集長

もちろん、仕事ですから売れないものは作れない。そこで、市場調査をしてみました。

すると、名著、特に古典をわかりやすく解説するような本が、ここ15年ほどのうちにたくさん出ていて、一定のヒットになっていることが確認できたんです。

 

例えば、マルクスの『資本論』。古典中の古典で、岩波文庫のイメージを持っている人もいるかもしれません。全共闘世代なら必携書だったでしょうし、大学の講義のために買ったけれど挫折した、という若い人も多いのではないでしょうか。

実は『資本論』は2004年から出版部数が伸び始めており、当時でも3つの出版社から発行されていて、今では、4社に増えています。分析すると、2000年代前半に格差社会やワーキングプアといった問題が顕になったことで関心が高り、多くの人が「マルクスについて知りたい」と思ったためでしょう。

その関心の高まりは資本論に限らず、哲学や宗教、さらに経済学など含めた、社会科学の古典が売れる流れができていました。わかりやすい例が、2006年に刊行された光文社古典新訳文庫のヒット。なかでも、『カラマーゾフの兄弟』は累計で100万部を超えるベストセラーになっています。

名著解説は十分にビジネスとして成り立つんだ……目から鱗が落ちました。

「まんが学術文庫」第一弾にはマルクス『資本論』も含まれている。

この流れは2010年代になってますます加速しました。2010年には『超訳 ニーチェの言葉』が発売され100万部を超えるベストセラーになりました。2011年にはNHKで古典の解説をする番組「100分de名著」が始まり、テキストが売り切れになることもあった。これも、難解でわからないことを解説してくれるから、視聴者や読者がつく。番組は今も続いていて、テキストも数十万部を売り上げるなど好調です。

アドラー心理学を対話形式で読み解く『嫌われる勇気』(2013年)も100万部を超えましたし、2017年には、名著として読み継がれてきた吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』が漫画化され、200万部を売り上げています。

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