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企業・経営

「新事業のアイデアが一向に実現しない」あなたの会社に足りないもの

「イノベーション」の正しい生み出し方

ピーター・ドラッカーは「企業の基本的な機能はマーケティングとイノベーションの2つしかなく、そのほかはすべてコストだ」と言った。多くの企業は「イノベーションが生み出せない」ことを、自社の課題だと思い込んでいるのではないだろうか。

しかし本当の問題は、社内でせっかく生まれた「イノベーションのタネ」を潰してしまう、企業内のシステムにこそ潜んでいるーー。

イノベーションの生み出し方を体系化し、物語形式で解説する『ザ・ファースト・ペンギンス 新しい価値を生む方法論』の著者・松波晴人氏(大阪ガス行動観察研究所・所長)に、「イノベーションをちゃんと生み育てる方法」を聞いた。

 

真の新事業は「理解されない」

── 松波さんは「どのようにイノベーションを起こし、新しい価値を生み出すのか」という発想の方法論と同じくらい、「その発想を組織の中でどのように実現させていくか」ということに重点を置かれていますね。

松波:私たち大阪ガス行動観察研究所は、(株)オージス総研を通じて、いろいろな会社と「新しい価値をつくる(新商品や新サービス)プロジェクト」を数多く実施しています。そのなかで、フィールドを観察してそこから洞察を得ることで「これはいける!」という案が生まれます。私たちだけではなく、クライアント企業の担当者も同じ手応えを感じるような、「良い案」は出てくるのです。

これまでは、私たちの仕事はそこで終わりで、生まれたアイデアを実現させるのは、クライアント企業の仕事になるわけですが、その後、待てど暮らせど新商品は出ず、気がつくと同じコンセプトの商品がライバル社から先に出て成功してしまうというケースがあります。

そこで「あのアイデアは一緒に考えたじゃないですか」という話を担当者にすると、「ウチでは結局、意思決定ができなかったんです」という話になります。このように、「良い案はあったけれども実践されずに終わった」という話がとても多くあります。

なので、新しい価値をどう生むかということはすごく大切なことですけれど、それをどのように意思決定するかも同じくらい大事なんです。

── 『ザ・ファースト・ペンギンス』にも、主人公の若手社員たちが提案した内容を、認めようとしない上司たちが登場します。

松波:なぜそうなるか、というと、目利きが難しいからです。新しい価値をどのように判断するかが難しい。ロジカルには決められないんです。

多くの会社では、まず新しい価値の案が出てくると、「正しい」判断をするために、「あなたは、こういう商品が出たら買いますか」といったアンケート調査をします。そして調査の結果、ある程度の水準以上の支持が得られてはじめて次のステップへと進めます。

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── 物語でも、アンケートで8割の賛成が得られないとダメだという話が出てきますね。

松波:実際にある大手企業ではそのレベルの支持を基準にしていると聞いたので、そのように本にも書きました。しかしこれはあまり意味がないことなんです。というのも、画期的な商品・サービスであればあるほど、アンケート調査では判断できないからです。

たとえばソニーのウォークマンも、発売前の市場調査では「売れる」とは出ていません。私にはその理由がよくわかります。というのも、私はウォークマン発売当時、中学生でしたが、発売後、割とすぐに買ったんですよ。でも最初はヘッドフォンをつけて街を歩くのには勇気が必要でした。

今でこそヘッドフォンやイヤフォンをつけて街を歩くのは当たり前のことですが、当時は誰もそんなことをしていなかったから恥ずかしいんです。「音楽を聴きながら街を歩く」という文化がありませんでしたから。

イノベーションを生むということは、新しい文化を生むということでもあります。ですから新しい文化ができる前にいくら調査をしても、「良い悪い」「好き嫌い」の前に、「わからない」という人が多いのです。アンケートはすでにある商品やサービスの改善についての調査としては有効ですが、まだ存在しない価値の判断方法としては有効ではありません。

あなたに「先見力」はありますか?

では、どうすればいいのか。ロジカルに目に見える形で評価するのは困難なので、物語の中にも書いた「先見力」を持つということが必要になります。「先見力」には、2つの要素があります。

その1つめは、「お客さんに対する深い理解」です。まだ顧客自身も言語化はできていないけれど、本当に欲していることは何なのか、についての理解です。そうした先見力を、判断する側が持っているかどうか。つまり目利きができるかどうかです。

本田宗一郎さんは、よく赤提灯に出かけて行って、世の人達がどういう話をしているのかということをずっと聞いていたという逸話がありますが、意思決定をする人が自らフィールドに出かけて観察をすることで先見力を磨いていた、ということです。

2つめの要素は、「その組織はどのような意志のもとに動いているか」ということです。新たな文化をつくっていくときに必要なのは、「正しいかどうか」という基準ではなく、「どういう世の中にするために、どういった意志のもとに自社はやっていくのか」なのです。

企業の上層部が、「それは売れるのか?」という議論に終始するのではなく、「それはうちの会社の意志に合致するか」という問いを投げかけること、これがとても重要です。

これもよく知られている話ですが、スティーブ・ジョブズは、この部分がはっきりあってぶれなかった、と言えます。

彼は「(コンピュータオタクだけではなくて)すべての人がコンピュータを使ってクリエイティブなことができるようになる世の中にしたい」という明確な意志を持っていました。だからこそ、従来のコマンド入力ではなく、これからはグラフィック・ユーザー・インターフェイスだ、と判断したのです。

グラフィック・ユーザー・インターフェイスの開発に関しては、ゼロックスの研究所が先行していましたが、社内ではあまり評価されていませんでした。そこにジョブズがやってきて、「これだ!」と判断した。これこそが目利きですよね。

ジョブズの教訓からすると、目利きさえできれば、必ずしも自社で開発する必要はありません。実際に自社で開発するかわりに目利き力をもとに他社を買収するという手段をとる企業が日本でも出てきています。

グーグルやアップル、アマゾンといった、IT業界の巨人たちも最近は潤沢な資金を使って、盛んに買収を繰りひろげています。アップルがSiriを開発するのではなく、Siriを開発している会社を買収したように、彼らの買収も目利き力にもとづいています。

だから目利きできる人が大企業でもどんどん増えれば、日本のベンチャーもさらに盛り上がってくると思います。逆に日本に目利きできる人がいないと、せっかくおもしろい案がたくさんあっても、それらの芽が育たないことになりかねません。

目利きの存在というのは本当に重要です。

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