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美術・建築 週刊現代

「ピッカピカの一年生」のアイデアはこの写真集から生まれた

杉山恒太朗の「わが人生最高の10冊」

アイデアの源泉となった写真集

『童暦』は僕の人生を変えた一冊の写真集です。

フランスのジャック・アンリ・ラルティーグと植田正治といえば、最後までアマチュアリズムを貫いた世界の2大カメラマン。当時、植田さんの名前を知っている人は少なくて、そんな時代に、よく行っていたバーで知り合ったアートディレクターの堀内誠一さんに「日本にもラルティーグがいるんだよ」とその存在を教えてもらいました。

最初のページの写真、あぜ道の真ん中で、花を持って立っている男の子の笑顔が強烈に心に残りました。

実は、僕がクリエイターとして大きな一歩を踏み出すきっかけになったテレビCM「ピッカピカの一年生」は、この写真集がアイデアの元になって生まれたものです。そんなきっかけもあって、その後、東京駅のステーションギャラリーでの「植田正治大回顧展」のオープニングの植田さんの対談相手に選んでいただくという、僥倖にも恵まれました。

がむしゃら1500キロ』。1960年代、僕の10代の終わり、夢中になっていた場所は、当時通っていた船橋サーキットでした。そこでカーレースファンに今でも語り継がれる浮谷東次郎と生沢徹の伝説のデッドヒートを目の当たりにし、その日以来、浮谷は僕のヒーローになってしまった。

この本は彼の15歳の時の一人旅の手記です。市川と大阪の家を往復する旅で、道中接した様々な出来事が、少年の瑞々しい目線で書かれています。結局、僕は高校時代はサッカーにはまってしまい、レースから遠ざかっていったのですが、今でもこの本を手にすると誰よりも速く走れる気になります(笑)。

三一書房の『現代のシネマ』シリーズは、ゴダール他、ルイス・ブニュエル、フェリーニ、アントニオーニなど、今でも、本棚に鎮座しています。

ゴダールについては、個人的には、『はなればなれに』がベストですが、画面の色彩の過激さといえば『気狂いピエロ』。ラストシーンに、「また見つかった」「何が?」「永遠が」という印象的なナレーションが、画面いっぱいに広がる海原に入ります。それが、ランボーの詩だということをこの本で知りました。

鮮烈なラストシーンとロックバンド、ザ・フーのジャケットのイメージを組み合わせて生まれたのが、サントリーウイスキーローヤルのランボー篇CMです。この広告が大ヒットしたおかげで、僕はすっかり青白い文学青年だと誤解を受けることになり、その後の4~5年は困惑の日々を過ごすことになりました(笑)。

シネマテークに通う悦び

『映画について私が知っている二、三の事柄』。小さい頃から群れることや団体行動が苦手だった僕は、デモに参加する友人たちを遠目に見ながら、好きな映画にひとりのめり込んでいきました。そしてその時期出会ったのが、山田宏一のこの一冊。

パリには、シネマテーク(映画博物館)なるものがあって、毎夜テーマ毎に、何本もの映画が上映され、しかも安価で観ることができる。本にはそこに通う悦びが綴られていて、心を奪われた僕は、パリに住むことをぼんやりと決めました。

翌年いよいよ僕のシネマテーク通いが本格的に始まると、世界中の映画たちに溺れている中で、溝口健二、小津安二郎、川島雄三、成瀬巳喜男など、日本ではほとんど観ることができなくなっていた映画にパリで出会うことになったのです。

 

例えば、ディレクターオブフォトグラフィ(映像監督)の特集として、宮川一夫作品特集が組まれたり、三島由紀夫の『憂國』など日本では上映禁止の映画すら観ることができました。

『少年ケニヤ』から始まり、船橋サーキット、浮谷東次郎、ヌーベルヴァーグの映画、パリ五月革命、モダンジャズと吉本隆明、植田正治。

凡庸とはいわないまでも、僕の過ごしてきた青春は、世代的にふりかえれば、実はそれほど変わったものではなく、むしろ典型的だったとすらいえるのかもしれません。

そう思うと、今更ながら自嘲し、呆れてしまう。'60年代から'70年代というのは、なんと熱く、初々しくもあり、濃い時代だったんだろうと感慨は尽きません。

この10冊を選ばせてもらうという機会で、時代に翻弄されながらも、僕が如何にして形成されていったかという軌跡は、読書歴そのものでもあることに気づかされました。

4月末に『アイデアの発見 杉山恒太郎が目撃した、世界を変えた広告50選』を出します。本と同様、広告も時代の文化を支えてきたもののひとつでした。(取材・文/緒形圭子)

▼最近読んだ一冊

「昨年の晩夏、ロンドンから汽車で、5時間かけてバーナード・リーチと濱田庄司のポトリー(窯)があるセント・アイビスを訪ねた。車中では、この本を片手にジントニック。着いた先は、尾道に似た、美しい小さな港町でした」
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