社会保障・雇用・労働 企業・経営 医療・健康・食

障害ある息子のために父が始めた「胡蝶蘭ビジネス」驚きの成果

目指すは障害者の年収10倍
なかの かおり プロフィール

物語を売る「オーナー制度」

オーキッドガーデンはB型の福祉事業所で、最初に千葉のある街で作ろうと計画した。だが立地の問題もあり、地元の人に反対されて諦めた。富津市で土地を見つけ、地元のロータリークラブの後押しで1千坪を安く借りられて一気に進めた。温室の総工費7千万円のうち、およそ半額は日本財団の助成を得た。

販売方法もユニークだ。胡蝶蘭の苗の仕入れ価格は千円ほど。3万円で30株の苗が購入できる。オーナーが購入した30株の苗は、障害者が半年間かけて開花させ、3本立ての一鉢はオーナーへのお礼として指定通り届ける。残りの27株は企業に販売し、障害者の収入にする。物語を買ってもらい、今は900社が取引先になっている。

2017年12月に福祉事業所として認可が下りるまでは、スタッフが胡蝶蘭を育てていたので、私が訪ねた時は障害ある人が働いていなかったという。今年1月から、7人の障害者が働く。電車で通ってきている人が多い。その他、サポートのスタッフは5人。他に地元のシルバーボランティアやアルバイトも参加している。障害のある人は20人まで働くことができる。

朝は9時からミーティング。10時に作業を始め、水やり、支柱を立てる、芽を摘む、しなだれさせるなど、分業してそれぞれができることをする。お昼休憩や体操の後、また仕事。3時には休憩して4時ぐらいには終わる。集中できなくなったら、外へ出たり掃除をしたり、工夫する。

 

お金を使う喜びも知ってほしい

障害のあるメンバーからは「お花が好き」「工賃が高くて嬉しい」との声も。いつも世話をされる立場だったのが、植物を世話する喜びを感じている。「グリーンに触れているとセラピー効果もありますし、温室は音楽をかけていて楽しく快適。湿度も低く、暖かくてTシャツで過ごせるんですよ」と那部さん。

水やりをする社員。誇らしげな表情で生き生きとしている 写真提供/アロンアロン

「お金を使う喜びも知ってほしい」と、アウトレットやレストランに行くプランを立て、父の日や母の日のプレゼント、旅行を勧めたいという。

昨年度は、1億円の売り上げがあった。さらなる社会貢献を目指し、アロンアロンとアートグリーンは新しい会社「A&A」を始めた。那部さんは説明する。「会社によっては、お花代に年間、5百万から1千万円も使っている。自社栽培に切り替え、経費削減と障害者雇用の両方を達成させましょうと呼びかけています。働く場所はオーキッドガーデンの温室をお貸しし、配送まで引き受けます」

雇用率アップと自立目指して

2%だった障害者の法定雇用率は、新年度から2.2%に上がった。A&AがB型の福祉事業所で技術を身につけた障害者を紹介、企業が雇用する形にすれば、企業側は障害者の雇用率が上がり、障害者も経済的に自立する。職場はオーキッドガーデンなので安心感がある。

こうして利益を上げ、サポートするスタッフの待遇改善も目指す。20人の障害者がいると、福祉の制度で支払われるのは年に約2千万円。この中から送迎の車両費、家賃、光熱費を賄うと、スタッフの給料は少なく、将来の生活を描くことができないからだ。

今後、オーキッドガーデンと同様の温室を名古屋・大阪・福岡にも建設する予定という。近隣の福祉事業所にも、胡蝶蘭の栽培に必要な道具のパーツを作ってもらい、買い取って連携していく。

アロンアロンは、バリの言葉で「ゆっくりゆっくり」という意味だそう。初めは那部さんがカメラを向けると、ぎこちなかったメンバーが今では笑顔を見せるようになった。ゆっくりと、確かに成長している。那部さんと親交のある写真家・渡辺達生さんも現場を訪れ、働く姿を撮影した。写真は「アロンアロンの紹介に使っていいよ」と言われている。

那部さん自身は顔が広く、ビジネスや福祉・メディアなど様々な業界を飛び回る。「勢いがありすぎて、忘れ物が多い。必要な物を全部、トランクに詰めて持ち歩いているんですよ」と笑う。

オーキッドガーデンで多忙な4月にかけ、事件が起きた。黄金虫が発生して大事な花を食べてしまったのだ。そんな時も那部さんは「1匹捕まえたら200円!」とメンバーに呼びかけ、ユーモアを持ってトラブルをプラスに変えていた。

時に笑いに包まれる職場。大変なことに直面してもユーモアは救いを呼ぶ 写真提供/アロンアロン