医療・健康・食

どんな名医も専門外のことについては「役立たず」になるという現実

覆面ドクターのないしょ話 第12回
佐々木 次郎

内科医の本音は「縫う処置なんか絶対やりたくない」

質問①のケース。

たとえば内科医が当直していたとしよう。「先生、今から頭痛の患者さんが来ます」と連絡が入ったら、「いいよう」と気安く受けてくれる。患者さんの話を聞いて、診察して、検査を色々考えてオーダーする。きちんと診断して、起こり得るリスクも説明して、薬を出して、「はい、おだいじに」。

ところが、この内科医に、「先生、指のナート(縫合)の患者、今から来ます」と連絡が入ったら、「ムリムリムリ! 俺、内科だから」と断るに違いない。縫う処置なんかは絶対にやりたくない。たとえ1ミリだってやりたくない。骨折なんか絶対に嫌だ。それが内科医の本音だ。

 

質問②のケース。

実際、指のケガは結構出血するので、処置には経験が必要だ。内科医が指の処置をしたら悲劇でもあり喜劇にもなる。

「看護師さん! 血が止まらないんだけど!」
「バイポーラ(止血用のピンセット)で焼きますか?」
「焼きたい! 焼かせて! 早く! 早く持ってきて!」

ここから出血、その隣から出血。まるで、もぐらたたきのように内科医は出血部位を焼きまくる。いや、指は小さいのだから、しらみつぶしといったほうが適切か? 指は血液の循環が豊富で、小さな傷なのに、ピュッと血がはねたりする。

「止まれ! 止まれ! くそ!」

焼いても焼いても血は止まらない。処置が終わったときには、傷は焼け焦げたサンマのようになっていたりする。整形外科や形成外科のドクターなら、ケガの処置に慣れている。


「指って出血するけど、ガーゼに包んで包帯巻いて、手を上に挙げておくだけで、結構血は止まるんだよ」

いたって冷静だ。そしてさっと縫って一丁上がり!

切って縫っては外科医の独壇場(photo by istock)

ところが今度は、整形外科医が当直しているところに、「先生、頭痛の患者さんが来てます」などと連絡がきたら、整形外科医は頭を抱え込んでしまう。

「えーっ!? 頭痛?」

頭痛をなめてはいけない。そのとき、医者は様々なケースを想定する。

「セデスを飲めば治る頭痛かなぁ」
「脳出血の前兆かな? 逆に脳梗塞かも」
「モヤモヤ病って病気あるよなぁ」
「うわっ、おじいちゃん、あくびしてるよ。夜中だから眠いだけ? それとも……」

あくびは脳の血流が低下した患者さんによく見られる症状である。そんな可能性を考えて、患者さんや家族に一つ一つ質門し、検査を組むのでとても面倒な作業になる。切ってさっと縫って終わり、という外科処置のようにクリアカットにはいかない。

「くそっ! わからねぇ。だから頭痛はイヤなんだ!」

傷の処置ではあんなにカッコよかったのに、今度は明らかに精彩を欠く。

最後に、質問③のケース。

どんな医者であっても、胸痛の診断は緊張を強いられるものだ。この場合は、やはり最初から循環器内科(心臓専門の内科)へ搬送する。大きな病院の救急外来には、患者さんが昼夜の別なく、救急車で搬送されてくる。ひどい狭心症なら即座に心臓カテーテル検査をして、血管の治療を行う。場合によっては検査中に患者さんの容体が急変することもある。そんな修羅場の中にいても、循環器内科医の本音はこうだ。

「やっぱり心臓にカテーテル入れてるときがいちばん落ち着くよね。指のケガの処置なんか絶対やりたくない! あ~、ヤだヤだ……」