医療・健康・食

どんな名医も専門外のことについては「役立たず」になるという現実

覆面ドクターのないしょ話 第12回
佐々木 次郎

両極端な整形外科医と精神科医

外科医であれば大概のことは平気なのだが、内科系の医者にとって、手指の手術はかなり気持ち悪いらしい。特に手術から一番縁遠い精神科の先生がそうだ。

精神科の医者が、機械で損傷した手の手術を見学した。整形外科の執刀医が手術中に所見を丁寧に説明していた。

「静脈が何本か切れています」
「静脈切れちゃっても大丈夫なの!?」
「焼いちゃいます」
「焼いちゃうんだぁ!?」
「それと腱が切れてますね。切れた腱を引っ張ると、どの指の腱かわかります。ほら、人差し指動くでしょ。握ってぇ、伸ばして。握ってぇ……」

まるで指が生きているように、人差し指がスムーズに動く。

「もういい、もういい。や、やめて! 指、動かさないで! なんだか気持ち悪くなってきた。俺、外で待ってるよ」

整形外科医がドヤ顔で言った。

「しょうがねぇなぁ、精神科医は」

 

今度は整形外科の医者が、精神科の電気ショック療法を見学しに来た。全身麻酔で患者さんは静かに眠っている。頭に電極を取り付け、いざ電気ショック開始!と同時に眠っていた患者さんが苦痛の表情を浮かべて体をのけぞらせる。見学の整形外科の先生は、まるで自分が電気ショックを浴びたように思わず体をのけぞらせた。

「ウヮーッ! 痛そう! 痺〈しび〉れる! もういい、もういい、やめて! もう終わりにしてあげて!」
「はい…では2回目」
「ウヮーッ!」

精神科の医者がニヤリとしてつぶやいた。

「しょうがねぇなぁ、整形外科医は」

このように見慣れない手術は医者でも気持ち悪いものだ。このことをつらつら考えていたら、これまであちこちで聞いた「専門の処置以外したくない」という医者仲間の声がよみがえってきた。

では、現代ビジネスの読者の皆様に質問です。若い研修医が、たった一人の当直医として病院にいると仮定します。次に挙げる①から③のケースのうち、来院されたら困るなあと思うのは、どの患者さんでしょう?

①軽い頭痛を訴えて、歩いて来院してきた60代男性。
②包丁で指を切ってしまい、血が止まらない30代女性。
③胸痛を訴えて救急搬送された50代男性。

たぶん①の頭痛の主治医ならできるかも、と思ったのではないだろうか? それ以外は外科の処置や専門の知識が必要で、③は緊急性を要する。やはり①がいちばん安全そうである。

しかし、実際当直している医者の反応は、その専門によってまったく異なってくる。