中国
「日中韓サミット」被災地を訪問した温家宝の冷徹な計算
日本もクールにチャイナマネーを徹底活用すべき
【Photo】getty images

 先週末の5月21日、菅直人首相、温家宝首相、李明博大統領の3国首脳揃っての「福島慰問」が実現した。今回は、中国から見た「福島慰問」の意味と、「世界第2の経済大国」中国を活用した震災復興について、考察してみたい。

 まず温家宝首相は、「慰問宰相」と言われるほど、これまで中国全土を慰問に回ってきた。そもそも2003年3月に首相に就任するやいなや、SARS騒動となり、北京市内の各地を慰問することから、首相としての職務が始まった。2008年5月の四川大地震の時には、地震発生から数時間のうちに、政府専用機に乗って四川省へ向かっていた。

 今年に入ってからも、旧正月前の1月末には、最西端の新彊ウイグル自治区に雪害の慰問に出かけ、3月には南西部の雲南地震の慰問のため現地入り。4月には北京の南西1000㎞にある山西省の旱魃被害の地域を慰問した。そしてこの5月7日には、四川大地震以来、3年間で実に10回目となる四川省の被災地訪問を敢行、現地で「復興勝利宣言」を行っている。

被災地慰問までの紆余曲折

 そのような温首相なので、今回の東日本大震災を受けて、日中韓サミットで訪日する際に、被災地に慰問に行きたいという意向を持っていた。だが、実現するまでには、紆余曲折があったという。中国の外交関係者が、経緯を明かす。

「1998年に江沢民主席(当時)が訪日した時、仙台に赴き、『革命作家』魯迅の所縁の地を訪ねている。今回の温首相の訪日も、北京から仙台空港に降り立ち、魯迅の像に挨拶し、仙台周辺の被災地を訪ねてから東京へ向かう予定だった。

 ところが日本側が開催直前になって、『福島へ行ってほしい』という希望を出してきた。核汚染の恐怖が日々、伝えられているだけに、こちらは総理をそのような所へ案内するのはリスクが高いと判断し、反対した。ところが日本側は、『菅総理の強い意向だ』の一点張りで聞かない。日中韓サミットは、各国持ち回り開催で、開催国が日程を組む取り決めになっているので、最後は温首相本人に打診し、了解を取った」

 こうして、菅首相が強く希望した福島での「3首脳揃い踏み」が実現した。中韓首脳を被災地に伴って、自己の政治的パフォーマンスに利用したいという菅首相の思惑はミエミエだ。だが同時に、菅首相のワガママに付き合った中国側にも、冷徹な外交的打算があったことを忘れてはならない。中国側の思惑とは、大枠以下の5点だ。

 1.日本での親中派の造成

 昨年秋に尖閣諸島問題で日中が「激突」して以降、中国側は日本における中国の「イメージ向上」に躍起になってきた。対日関係悪化による種々の悪影響については、小泉政権時代に懲りているからだ。そこで、「日中国交正常化40周年」は来年だというのに、一年前倒しで、上野動物園にパンダを贈ったり、様々なイベントを行っている。そんな中、

 今回の温首相の「福島慰問」は、日本人に向けた絶好のパフォーマンスとなると判断した。

2.中国での反日感情の払拭

 同様に、中国人へ向けても、「日本を助ける中国」という映像は、絶好のパフォーマンスとなる。中国政府は、国民の反日感情の悪化→それを理由にしての民衆の暴動→現体制の動揺、というパターンを、常に警戒している。そのため、「四川大地震で日本が助けてくれたことへの恩返し」という形での今回の慰問は、中国人の対日感情を鎮めるのに、大いに役立った。

 3.日本経済の復興具合の確認

 2008年に四川大地震が発生して以降、北京のアメリカ大使館は、大使クラスが頻繁に震災地へ赴き、定点観測してきた。これは、復興の様子から今後の国全体の発展具合が予測できるからだという。その意味では、温首相の福島入りは、「日本の未来を予測する定点観測の第一歩」と言える。

 4.中国での原発促進

 温首相と李大統領に共通しているのは、「ホンネでは原発を推進したい」ということだ。中国は、3月の東日本大震災の5日後に温首相が勇ましく「原発凍結宣言」を行った。だが、その後の内部調査で、「中国の持続的な経済発展とCO2削減のためには、原発は欠かせない」との結論に達している。

 現在中国で建設中の原発は、28ヵ所。これは世界で建設中の原発の、実に43%に該当する。中国の電力業界関係者によれば、「温首相は遅くとも今年の年末までに原発凍結宣言を解除するだろう」とのこと。凍結宣言解除のためには、「福島は安全である」という証が必要だったのだ。

5.復興利権の獲得

 「弔問外交」という言葉があるように、外交的には、「他人の不幸」は国益拡大の機会である。具体的には、被災地にチャイナ・マネーを投資してインフラ整備を行ったり、先端技術を持っている被災地の企業を買収したりということが考えられる。そのあたりの状況を視察しに行ったわけである。

 次に、菅政権は「復興、復興」と言うが、借款が1000兆円もある日本政府に、財源があるはずもない。北京在住の私から見ていると、日本の隣に「世界第2の経済大国」が控えているのに、菅政権はなぜこれを積極的に活用しないのかと、歯がゆい気持ちだ。

 そこで、「中国を活用した復興私案」を4つ述べる。

1.冯小剛監督に、被災地を舞台にした映画を撮ってもらう

 中国ナンバー1の人気映画監督・冯小剛監督が北海道を舞台にして撮った恋愛映画『非誠無擾』(原訳:マジでないなら関わらないで)の影響で、中国中の若者が北海道に憧れ、北海道を訪問する中国人観光客が激増した。まさに数年前に、「冬ソナ」ブームで日本人女性が韓国に殺到したのと同じ現象だ。

 そのため、今度は東日本大震災をテーマにした映画を撮ってもらい、中国人観光客を誘致する。冯小剛監督は昨年、20万人以上が犠牲になった1976年の『唐山大地震』を映画化し、大ヒットさせており、震災関連の撮影には実績がある。

2.「中国向け商品」の工場を建設する

 中国人が好む「日本みやげベスト3」と言えば、1位は、明治乳業の粉ミルク。これは、中国製毒入り粉ミルクが大問題になって以降、ネット通販の人気商品第1位となった。第2位は、象印の炊飯器。中国の不味いコメも象印の炊飯器で炊けば美味しく召し上がれるという伝説があり、都内の量販店や羽田空港の免税ショップなどでは、中国人観光客に圧倒的人気を誇る。

 第3位は、帯広に本社を持つ六花亭のお菓子。上述の北海道ブームで、中国人の口に合ったのは、「白い恋人」ではなくて、「六花亭」だった。今年年初に北京のデパートで北海道展が開かれた時には、六花亭を求める人々が殺到したし、私も一時帰国するたびに、中国人の友人知人から六花亭のお菓子を頼まれる(「東京では買えない」と言うと悲しい顔をされる)。

 このように、震災復興の一環として、中国人が好む商品を作る工場を建設し、中国に輸出する。何せ13億4000万人の市場である。

3.カジノ&免税店を作る

 東京カジノ構想は頓挫したが、福島か宮城に「カジノ&免税店」を建設する。狙いはズバリ、中国人観光客の誘致である。現在建設中の上海ディズニーランドがオープンすると、中国人は東京ディズニーランドには行かなくなる。また、中国人は世界一のカジノ好き民族なのに、政府の方針で中国大陸にはカジノが作れない。そこで、「第2のマカオ」と言えるようなカジノ都市を作る。免税店に関しては、この4月から中国最南端の海南島で、免税措置を実験的に始め、着実に観光客を増やしている。

4.中国人富裕層向けの別荘を建設する

 韓国の済州島が、昨年秋より、「50万ドル以上投資した中国人に永住権を与える」という政策を始め、済州島に別荘を建てる中国人富裕層が増えている。同様に、日本の東北地方の被災地にも、温泉や自然との触れ合い、心温まるサービスなどをウリにして、中国人富裕層向けの別荘群を建設する(その際、地震時の財産保障が必要だが)。この事業は、中国国内で政府のマンション建設規制が厳しくなってきたことで、苦境に陥っている中国の不動産業界と組む手もある。

 いずれにしても、日本が智恵を絞れば、チャイナ・マネーは被災地の復興に役立つはずだ。

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