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人口・少子高齢化 ライフ 週刊現代

70歳を過ぎたら「もうがん検診は受けない」という選択

病気は早く見つけるほどカネがかかる

「百害あって一利なし」

60歳で働き詰めだった現役生活にきっぱりと別れを告げて10年目。70歳ともなると身体のあちこちにガタがくるもの。

健康リスクを少しでも早く発見したいと、定期的にがん検診や人間ドックを受診している人は多いだろう。

厚労省のホームページでは〈がんは我が国において、昭和56年から死亡原因の第1位であり、がん検診の受診率を向上させ、がんを早期に発見することがきわめて重要です〉とうたわれており、市区町村でも無料のがん検診が行われている。

また、保険適用外で、平均4万円はかかるといわれる人間ドックでの検査も大人気だ。

なかには、ホテルのような豪華な施設で1週間かけて体中をくまなく検査し、100万円以上かかるようなところもあるが、それでも受診を希望する高齢者は後を絶たない。

日本中で、これだけがん検診が普及している状況を眺めていると、「年をとっても早めにがんを見つけて治療すれば長生きできる」というのが常識のように思えてくる。

だが、「70歳を過ぎてから受けるがん検診は、百害あって一利なし」とその効果を真っ向から否定するのは、医学博士で新潟大学名誉教授の岡田正彦氏だ。

「検査技術の向上により、検診を受ければ受けるほど、治療の必要がない小さな変化や、これ以上大きくならないような病気が見つかってしまいます。

一度病気を見つけてしまえば、医療機関には責任が生じますから、ありとあらゆる再検査や治療を考えないといけなくなる。それによって、余計な治療や手術をさらに増やしてしまうことになるのです」

仮に、40代の時点で検診を受けてがんが発見されたのであれば、人生の残り時間を考えても、身体に負担の大きい治療を受ける価値はある。定期的な検査も必要だろう。

だが、70代になってからがんが見つかったところで、限られた人生の残り時間を数年、場合によっては数ヵ月だけ延ばすために手術や抗がん剤治療を受けるのは、肉体的にも精神的にも、ただつらいだけだ。

医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が言う。

「いまアメリカでは、米国内科学会などを中心に『チュージング・ワイズリー』(賢く選ぶ)という運動が盛んになっています。蔓延している無駄な医療に警鐘を鳴らし、本当に意味のある医療だけを受けるようにしようという運動です。

このなかで『平均余命10年未満の人へのがん検診は控えるべき』という指摘がされています。

70代になると検診によってがんが見つかろうが見つかるまいが、もはや人生の残り時間に大きな差はないと、医学会が自ら認めているのです」

 

寿命を考えれば、ほとんど意味がないにもかかわらず、医者に勧められるがまま、つらい治療を受けることを決断すると、待っているのは膨大な出費に悩まされる日々だ。

抗がん剤治療は、投薬と休止のサイクルを決めた治療計画をつくり、効果を見ながらそれを繰り返す。この一つのサイクルにかかる費用は薬価によって変わってくるが、およそ10万~100万円程度。

もちろん、健康保険の適用で自己負担額は抑えられるが、それでも月々3万円程度の負担は避けられない。

一般的に、がんは治療後、無事に5年間が経てば完治したとみなされる。

だが、高齢者の場合、進行や治療のペースが遅いケースも多く、人によっては5年以上にわたって定期検査を受けながら、投薬治療を続けることもある。

月の自己負担額を3万円程度に抑えたとしても、5年間受け続けるとなれば、200万円近い負担が家計にのしかかる。そして、この治療費は、がんを早期に発見すればするほど、かさんでいく。

さらに、万が一、追加検査などで入院することになり、個室しか空いていなければ、1日平均5000円ほどの差額ベッド代もかかってくる。

このように、実際に治療を開始してみると、始める前に想定していたよりもずっと多額のおカネが必要になり、驚かされることになるのだ。