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人口・少子高齢化 ライフ 週刊現代

年金は「後で高く」より「先に長く」もらう、が正解だった

不安をスッキリ解消

285万円も得する

2月中旬、政府が年金の受給開始年齢を70歳以降も繰り下げられるようにする方針を決定した。

現状でも、受給年齢を70歳まで繰り下げれば、通常の65歳からの受給に比べ、月の基礎年金額が42%もアップする。これが、同じ割合で75歳まで遅らせられるようになれば、受給額が10年間で84%も増えるのだ。

低金利で、銀行に100万円を10年預けても利息が1000円にもならないこのご時世、「繰り下げ受給」は、非常にお得に見えるかもしれない。

長生きリスクという言葉もある。働けるうちは働いて、年金暮らしの期間を少しでも短くしようと考えるのもわかる。だが、その常識をちょっと疑ってみてはどうか。
果たして、75歳になったとき、そんなにおカネが必要だろうか――。

総務省の家計調査によれば、世帯主が60~69歳で二人以上の世帯の1ヵ月の生活費は約29万円。さらに、75歳以上の世帯に限れば、支出は21万5151円まで減少する。歳をとるほど、おカネはいらなくなるのだ。

「繰り下げを選択すれば、確かに受給額は増えます。しかし、繰り下げた期間に大病をしたり、寝たきりになってしまえば、元も子もない。自由に動けないときにおカネが増えても無用の長物になるだけです。

いっぽう、60歳からの繰り上げ受給を選択すると、65歳からの受給に比べて、1ヵ月の受け取り額は7割ほどに下がりますが、かわりに、元気なうちから年金を使うことができます。

私自身も夫婦そろって繰り上げを選択し、旅行などの趣味の費用にあてています。家庭の状況に応じて受給方法を決めれば良いでしょう」(社会保険労務士の田中章二氏)

 

いわば、受給を繰り下げるのは、「自分の時間」を削って働き、対価として後でおカネを高くもらうことと同義だ。寿命が伸び続けているとはいえ、心身ともに健康に過ごせる時間は限られている。

その貴重な時間に、繰り上げ受給で受け取れる年金を活用し、仕事と生活のバランスをとりながら長生きをしたほうが、結果的に幸せなのではないか、というわけだ。

実際、国民年金保険料を40年間支払った人が、男性の平均寿命に近い81歳で亡くなるケースを考えてみよう。

仮に、この人が75歳まで受け取りを繰り下げた場合、1年間にもらえる金額は、143万3912円と非常に大きい。だが、81歳で亡くなるまでの受給期間はわずか6年間となり、合計の受給金額は860万3472円にとどまる。

これに対し、繰り上げ受給を選択し60歳から年金を受給していた場合はどうなるか。

年額は54万5510円と大きく下回るが、81歳になるまでの21年間でもらえる総額は、1145万5710円にもなる。60歳から受給していたほうが285万円以上も多くの金額を手に入れることができるのだ。

なにより、一番損なのは75歳の繰り下げ受給を申請しながら、受け取り開始前に死亡した場合だ。そうなれば遺族は死亡一時金しかもらえない。その金額は、高くてもわずか32万円。

コツコツと膨大な保険料を納めてきても、死んでしまえば、支払われるのは、たったこれだけだ。

年金受け取り前にしろ、後にしろ、自分がいつ死ぬかは、誰にもわからない。一見、大きく得できるように思える「受給の繰り下げ」には、大きなリスクが潜んでいる。

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