photo by i Stock

コンクリートが危ない! 最新技術は検査を変えるか?

「光」と「音」で挑む予防工学最前線

「傷みの兆候」を診断する新技術

傷んだものは修理すればいい。――簡単な話だ。

だが、「どこがどう傷んでいるのか」を知るのは容易ではない。特に、道路や橋、トンネルなどのインフラ設備は規模も大きく、休むことなく日夜、使われていることもあってなおさらだ。

しかも、「傷んでから」気づいたのでは遅すぎる。いったん破損が生じてしまえば、重大な事故につながるリスクがあるからだ。なんとしても、未然に察知する必要がある。

 

インフラが傷む前に、その徴候を知るにはどうしたらいいか? そのための技術をもった熟練工の数は限られているのが実情で、じつは、ひそかな、しかし無視のできない社会問題になっているのである。

その問題を“技術”で解決しよう。互いに異なるふたつの新技術を使って、日本のインフラ整備における技術革新をもたらし、さらには「人不足」「後継者不足」にまで対応しようとしている人たちがいる――そう耳にした探検隊は、いわば予防のための工学ともいうべき新たな研究領域を探訪してみることにした。

おとなしいヒビ、落ち着きのないヒビ

「じっとしているヒビなら、ぜんぜん心配ないんですよ」

隊員の1人が住んでいるマンションの壁には、築後まずまずの時間が経過していることもあって、そこかしこに細かなヒビ割れが走っている。「どこがどう傷んでいるのか」のわかりやすい例ではないかと思い(そして内心ちょっとビクビクしていたこともあって)、橋やトンネルの点検でも、あのようなヒビを探すのですか? と訊ねてみた。

意外な答えを返してくれたのは、産業技術総合研究所・製造技術研究部門トリリオンセンサ研究グループの寺崎正さんだ。

寺崎さん

「じっとしているヒビ!?」――なんですか、それは?

マンションの壁は、日中は太陽光で熱せられ、夜間は気温が下がることで、1日のなかで表面温度に変化が生じる。南向きの壁なら、その変化はより大きくなる。表面温度が変わることで、ごくわずかながら壁面は膨張や収縮を起こしているのだが、そのとき、表面に走っている細かなヒビは、まるで呼吸をするように微妙に開閉するのだという。

「開閉の前後で、サイズに変化のないものが『じっとしているヒビ』です。こういうヒビなら、構造的にはなんら問題ありません。私たちが探し出したいのは、壁面や橋脚に致命傷をもたらしかねないヒビ、つまり『じっとしていないヒビ』なんです」

人間社会と同じように、ヒビにもおとなしい性格をしたものと、落ち着きのないタイプとがあるのだと知って、新たな疑問が頭をもたげてきた。

私たちが暮らすマンションはもちろん、毎日使う道路や橋、トンネルなどは、そのほとんどが鉄筋コンクリートでつくられている。それらの建築物は、どのくらい長く使えるのだろうか? すなわち、寿命ってどのくらいなのですか?

この質問に答えてくれたのは、産総研人工知能研究センターの村川正宏さんだ。

「一応50年、という目安があります。たとえば、日本全国にある長さ2m以上の橋は、1970年代につくられたものが最も多い。つまり、まもなく『50年』という寿命のピークがやってくる、ということです。2013年の時点では、全国の橋のうち、築50年以上は18%でしたが、2023年にはじつに43%が築後50年を超えることになります」

ハンマーで叩いて「音」で判断

えっ! たった5年でそんな状況に!?

驚く探検隊に、問題をより難しくしている要因がさらにあるんです、と村川さんが教えてくれた。

「じつは、コンクリート構造物の物理的な寿命は、正確にはわかっていないんですよ」

はっきり50年とわかっているのなら、前もって検査や改築をしていけばいい。だが、「50年」という数字はあくまでも目安でしかない。だからこそ、安全を確保するには綿密な「検査」が重要になる。

じつは、2014年から、全国のインフラ設備を5年に1度、目視かつ近接で点検することが義務づけられている。これは、日本の高速道路史上で最多の死亡者をもたらした、2012年12月に起きた笹子トンネル天井板落下事故をきっかけに、検査の確実化を目的としたものである。

一方、この検査の義務化により、必要とされる検査量は劇的に増えた。問題は、検査に対応できる「熟練した検査員」の数は、そう簡単に増えないということだ。