写真:花房徹治
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茂木健一郎×鈴木大介「脳科学者」と考える社会問題

『されど愛しきお妻様』刊行記念対談

現代ビジネスでの好評連載をまとめた書籍『されど愛しきお妻様』。スペシャル対談の第2弾には、脳科学者・茂木健一郎さんをゲストにお迎えし、縦横無尽なトークを展開。「お妻様」と茂木健一郎さんの意外な共通点とは?

『されど愛しきお妻様』に感じたもの

茂木 『されど愛しきお妻様』は、僕から見てすごくユニークな奥様との出会いから、その後もいろいろなことが書かれているんですけど、(お妻様の状況を)「何でこうなんだろう?」って思っていたのが、ご自身の病気を経て理解して、今はより奥さんのリズムとかそういうものを尊重する生活に着地してるという感じが、僕はとてもよいと思っていて。

よく子育て中のお母さんとかに「うちの子は学校に行けない」とか「起きられない」とか、「なかなか寝てくれない」とかいろんなことを言う方がよくいて。人間ってそもそも、この体自体がものすごく巨大なシステムで。日本経済もいろいろな人がいろんなことをやってもどうにもならないじゃない? 体も日本経済みたいな巨大なシステムなんですよ。

本人が何とかできるものって、理論的にいうとものすごく限られていて、朝起きられない人がいたときにいろんな薬を飲んだりとか、いろんな工夫をして改善できる部分もあるんだけどできないこともあって、基本的にそれを受け入れることからスタートするしかないっていう風に思うんです。

 

人は思うようにならないもの

茂木 僕、脳科学をずっとやってきていて、「人は思うようにならないものだ」ってことをみんなもっと分かったらいいなと思うんですよ。例えばほら、奥様が遅くまで寝てらっしゃるとするじゃないですか、もっと気合い入れれば早く起きられるだろうとか、朝食に90分もかけないで10分でグワってバナナ飲めるだろうとかいう風に言ってもできない。というか、そういう風になっているわけなんだよね、脳が……。でも、必ずしも世間はそう思ってくれないですよね。

鈴木 (僕は)これまで社会的困窮者を中心に取材活動をずっとやってきて、発達障がいの人も、いろいろな精神的な問題がある人も、たくさん当事者に会ってきたんですね。で、いざ自分が高次脳機能障がいの当事者になって、例えば「注意障がい」という言葉の、その裏に何があるかってあまり考えたことがなかった(ことに気づいた)んですね。

写真:花房徹治

茂木 字面は知っているけれども、どういうことなのかっていうことを、特に内観的にというか、自らの体験として掘り起こすのは難しいですよね。

鈴木 そうです。例えばコップの上に座っちゃう自分がいるとは思わなかった。(障がいがない人だったら)コップの上になんか座らないですよね。でも座っちゃうんです。

“スピーカー”であるということ

茂木 最近、「貧困状態にある人は自己責任だ」っていう人もいますが、「人間ってそう自分の自由にならない」ってことを分かっていないんだよね。僕は鈴木さんのお仕事にはそういう面が一貫して、貫かれている気がします。ご自身のこともそうだし、奥様のこともそうだし。

鈴木 毎回人に自分の仕事を説明するときに言うんですが、“スピーカー”になりたいだけなんです。

茂木 でも、代弁者になるのは、なかなか難しいことかもしれない。

鈴木 そうですね。

茂木 脳科学では「マインドフルネス」っていう考え方が最近、出てきてて。自分の感じていることとかをありのままに受け止める、何の価値判断もせずに。例えばストリートでちょっと苦しい立場にある少女を見たときに、倫理的・道徳的な決めつけや変なイデオロギーを経ずに、その場で起こっていることをそのまま言葉にしてスピーカーの役をやるというのは、誰でもできたことじゃないと思うんですよ。

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