「日本は今、“世界一”になれる岐路に立っています」
慶應義塾大学教授・シムドライブ代表取締役社長
清水 浩

〔日本発! 電気自動車革命が始まる〕
時速370km、東京─名古屋間を300円で走る電気自動車「エリーカ」開発に30年

「"ひとり勝ち"はもう終わり。誰にでも参入するチャンスはある」究極のエコカー「エリーカ」の技術を何と「オープンソース」に。「21世紀の産業革命」は、もうすぐそこまで来ている───。
『エリーカ』と清水教授。後部座席のドアはガルウイングで、フォルムも格好いい
清水 浩しみず・ひろし
1947年宮城県生まれ。東北大学工学部博士課程修了。国立公害研究所、アメリカ・コロラド州立大学留学。国立公害研究所地域計画研究所室長。国立環境研究所地域環境研究グループ総合研究官を経て、現在慶應義塾大学環境情報学部教授。30年間電気自動車の開発に従事。 ’04年に「エリーカ」を誕生させる。 ’09年『シムドライブ』 を設立し 、社長に就任。著書に『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)など  〔PHOTO〕中村將一(以下同)

 銀色に輝く流線型のボディに、8つのタイヤを持つ電気自動車「エリーカ」。最高時速370キロ、時速100キロに4.1秒で到達し、ポルシェ911ターボ以上の加速性能を誇る。しかも一回の充電300円分の電気代で、東京・名古屋間にあたる300キロの走行が可能。ハイブリッドカーとも違いガソリンを燃やさないためCO2の排出量はゼロ。まさに夢の超・エコカーだ。この「エリーカ」を開発したのが慶應義塾大学の清水浩教授である。

「私が30年以上電気自動車の研究を続けてきたのは、単純に、やりたいこと、やるべきこと、やっていることを一致させたいという思いがあったからです。人生の幸せは、その三つが一致していることだと思います。それが私にとっては電気自動車だった。車が好きで、公害と環境という解決すべき問題があり、人類が車を使い続けるためには電気自動車を開発するしかなかった。それでこのテーマを選びました」

 研究当初は「5年でうまく行く」と思っていたが、30年が経過しようやく本格的に今、電気自動車が離陸しようとしている。その間に苦労は無かったかと清水氏に聞くと、「いつか必ず電気自動車の時代が来ると確信し、淡々と実務的に研究を進めてきたので苦労はありません」という答えが返ってきた。

 2009年9月、鳩山由紀夫首相が国連の気候変動サミットでスピーチした「2020年までに1990年比で25%のCO2を削減する」という宣言は、世界各国に大きなインパクトを与え、久しぶりに世界に日本の存在感を示した。しかしその直後から国内では経済界を中心に、「どうやっても無理」という反対の声が噴出。現在もどうすれば25%の温室効果ガス削減を実現できるのか、国家としてのグランドデザインを描けていない状況にある。それに対する清水氏の解答も実に明快だ。

「CO2の25%削減という鳩山イニシアチブを進めていくための現実的な方法は、電気自動車と太陽電池を一気に社会に普及させること以外にありません。他の手法では%単位で減らせるものは存在しない。車から出ているCO2は18%、火力を中心とする発電によって出ているCO2は32%に上ります。ということは、CO2の50%が車と発電が原因なんです。その二つを変えれば大幅に減らすことができます」

 ガソリンエンジンのエネルギー変換効率は約8%。つまりガソリンを燃やしたエネルギーのうち92%が動力以外の無駄な熱となって消えている。それに対して清水氏が開発したタイヤの中にモーターを積む「インホイール型」電気自動車は約35%という圧倒的に高い効率でエネルギーを動力とすることができる。化石燃料を燃やさないため排ガスも騒音もない。それゆえガソリンカーの多くが電気自動車に置き換わることで、社会全体に非常に大きな省エネ効果とCO2の削減がもたらされる。

 さらに日本には現在、38万ヘクタールの耕作放棄地がある。もしもそこに全部太陽電池パネルを設置することができれば、それだけで十数%のCO2を減らせると清水氏は言う。火力発電から太陽電池による発電にシフトし、そこで得た電力によって電気自動車を走らせる。2013年に電気自動車の量産が始まれば、2020年までに25%のCO2を削減することは十分可能と清水氏は予測している。