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僕が毎月「妻の布ナプキン」で手を血に染める理由

生理ってインフルエンザよりつらい
鈴木 大介 プロフィール

社会的困窮女性はほぼ全員生理が重い

あまつさえ、僕は自身が病気になるまで社会的困窮状態にある「女性の当事者取材を得意とする」ルポライターの肩書きでやってきたはず。その僕がこの体たらくなことを、改めて恥じ入りたい。なぜなら僕がかつて取材をしてきた社会的困窮者の女性は、ほぼ100%生理が重かったからだ。

取材をしてきた鬱やパニック持ちの女性は、なぜかセットでPMS・PMDD(月経前症候群・月経前不快気分障害)を抱えていた。改めてパソコンに向かい、かつての自分が社会的困窮状態にある女性らに行った取材の文字起こしのフォルダに「生理」で検索をかけて、その検索結果数に絶望的な気分になった。

僕は聞き取っていたのだ。

生理が重い、生理がつらい。

布団から起き上がれない。

生理痛が何とかならないと普通の仕事も通勤もできない。

生理が重くて不登校。

生理がつらくて会社をやめて、ナイトワークやセックスワークに入った。

生理中にパートナーに暴言を吐いたらDVの報復を受けた……。

きりがない。なんでだろうと思ってはいたけど、そんな彼女たちの言葉をきちんと文字にして来なかったのは、ルポライターとしての「職務規定違反」ぐらいの罪悪感がある。

 

けれども言い訳するなら、なんで女性の側からその声が大きく社会に発信されてないのだろうと言う疑問も残る。どうしてだろうと深々考えていたら、また腹が立ってきた。僕が取材をしてきた社会的弱者の女性にとって最大の敵は、実は「苦労せずとも社会に適合できている女性ら」だったからだ。

腑に落ちる。ああ、ここに分断の根っこがあったのか。生理が軽い女性と重い女性は分断され、生理が重い女性も同様の女性同士で助け合う自助的グループと、そのグループにも入れない女性で分断される。民間療法的な緩和策を取るグループと、それを冷笑する理系女子みたいな細かい分断まである。僕が取材してきた人たちは、そしてお妻様も、分断で断ち切られた尾っぽだ。
 
懺悔ついでに僕自身、妻の「インフルエンザよりつらい」宣言から、改めて法規上の女性の生理休暇について労働基準法周りをみてみたけど、そもそも法律の時点で生理の重い女性をカバーできてるとは言い難いし、その法規ですら一般企業の殆どできちんと運用されているとは言えない現状に、真っ暗な気分になった。

女性の社会進出とか、確実に生理が重くない女性を基準に語られてる気がしてならない。そこを基準にして「苦しい人に自助努力」を押し付けているなら、それはもうダイバーシティとか働き方なんとかとか、奇麗ごとワードが片っ端からぶっ飛ぶ事案だ。

お妻様のシリコンカップとお猫様(写真:著者提供)

ちなみにこんな原稿をまとめている時点で、お妻様の「1日目」。先々月からふたりで相談して「月経カップ」(膣内で経血を受け止めるシリコンカップ)なるニューアイテムを導入しているが、その月経カップを煮沸消毒しながら、しみじみ思う。

こんなことは多分語る人たちの間では散々語られてきたことかもしれないし、今さら?って話かもしれない。けれど、この理不尽が世の中に周知されていない以上、何度でも、僕以外にも色々な人から、議論の投げかけがあっていい問題だ。

全ての男性に僕の懺悔につき合えとまでは言えないが、男性諸兄よ、自分が大切にしていると思っているパートナー女性の生理周期を知っていますか? 経血がどのぐらいの量か、痛みやしんどさがどの程度の重さなのか、真剣に考えたことはありますか? 女性の皆さん、もしあなたの生理が重いとして、それが「どのぐらい重いのか」をパートナーと語り合ったことはありますか?

「インフルエンザより重い苦しさ」は、積極的に堂々と訴えられて当然だし、そんな苦しさの我慢を強要する社会や家庭なんて、絶対におかしい。だから改めて言いたい。世界中の夫は、一度は妻の経血に手を染めてみたらいい。きっとそれは、大事な大事なことに気づく儀式になるはずだ。

【編集部と著者より書店様へのお願い】

現状、『されど愛しきお妻様』はノンフィクション棚に置いてくださる書店様ではよく売れていますが、医療棚に置かれてしまうことが多いようで、そちらは販売が苦戦中です。本書は、「家庭内の障害受容」の話でもありますが、それ以上に世の中のあらゆる「すれ違い夫婦」に届いて欲しい、どうしたらお互いに優しくなれるのかのメソッドを描いた本でもありますので、どうか配本位置をノンフィクション棚にして下さいますようにご配慮いただければありがたい限りです。

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