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口下手で悩んでいる人に伝えたい、「テクニック」よりも大切なこと

名インタビューアーが教えます
200万人の聴取者を癒やしてきた『ラジオ深夜便』の名インタビュアー、佐野剛平さん。その佐野さんに、 自分も相手も「心地よい」トークのシンプルなテクニックを語ってもらいました。

「声は人なり」

私のアナウンサー人生は、ろくな研修も受けないまま、就職と同時にゼロからのスタートを切りました。

初任地の松江放送局では、物見遊山を「ものみゆうざん」、他人事を「たにんごと」、古文書を「こぶんしょ」、名刹を「みょうり」、読経を「どっきょう」と誤読を繰り返し、私が出演するたびに局に苦情電話が殺到。誤読も、トチリも、言いよどみも、振り返ってみて呆れるほどに恥をかいたものです。

局では針のむしろ状態でしたが、先輩方はどこ吹く風。「がんばれよ」「そのうちできるようになるよ」とほったらかしでした。必死に原稿に向かっては、間違えずに読むことに専念するほかありませんでした。

なかには、「ただ与えられた原稿を正確に読むのがアナウンサーの仕事だ」と考える先輩も多くいましたが、やがて少しずつ慣れはじめると、「個性を出して伝えていきたい」という欲が出てきました。

そもそも、NHKのアナウンサーにとってこの「個性」は非常に厄介な課題なのです。いかに番組の顔として個性を出していくか。出しすぎれば「NHKらしくない」と批判され、控えようものなら「保守的でおもしろくない」と言われてしまいます。しかし、そんな制約の中でも、高橋圭三、宮田輝、野村泰治、鈴木健二、山川静夫ら先輩アナウンサーたちはお茶の間を沸かしていました。

 

よし、オレも個性を出して伝えていくぞ、と意気込んでみたものの、これが難しい。「オレの個性はどこにあるのか」という考えは若さゆえの思い上がりで、原稿に書かれた文意を、懸命に、自分なりの知識と経験を総動員して理解して伝えれば、自ずとにじんでくるものだとおぼろげながらもわかってきたのは、入局してから3年後のことでした。

ほとんど放任状態だった新人時代、唯一、先輩から教わった言葉に「声は人なり」という格言があります。個性とは意識して作り出すものではありません。では、生来のものとあきらめて努力を怠ってよいのかといえば、それも違う。

もともとはあがり症だった

松江からはじまり地域7局、最後に東京と、様々なアナウンサーと出会ってきました。優しくて魅力的な人も、自己顕示欲に満ちている人も、「オレが一番」と自信過剰な人も、それぞれが積み上げてきた僅かばかりの体験と知識を信じて、読んだ原稿の内容が伝わったかどうかと不安に思いながら、毎日マイクに向かっています。とすれば、この格言は「あまた経験し、人から学び、それなりの見識をもつ大人になれば自ずから、声と顔に表れる」という深い教えだったのでしょう。

会話も同様で、テクニック以上に大切なことがあるのです。それは「前を向く生き方と人への思いやりが自分の言葉になって表れる」ということ。

インタビュアーとして、またディレクターとして番組作りに携わった『ラジオ深夜便』では、200人を超える人生の達人たちにお話を聞きました。この仕事で私は決して恰好をつけず、相手を敬う気持ちで、一生懸命にお話をうかがうように心がけてきました。

そうすると不思議なもので、放送メディアに登場するのは初めてというしゃべり慣れていない方でも、夢中で話しはじめ、思いもよらない話を披露してくれたりするのです。

もともと口ベタであがり性だった私が、こうして少しずつ身につけていった会話のコツをまとめたのが本書『もう初対面でも会話に困らない! 口ベタのための「話し方」「聞き方」』(講談社+α新書)です。

話しベタの人でも、「聞き上手」になれば人づきあいが楽しくなり、「あの人にまた話したい」と思われます。自分のうまくない話し方をなんとかしたいと思っている方々に読んでいただければと思います。

読書人の雑誌「本」2018年3月号より