格差・貧困 ライフ

元「渋谷のカリスマJK」は、アラサーの今も「リア充」なのか?

A子とB美の複雑な感情【26】
鈴木 涼美 プロフィール

見えきった未来をつまらないと思う

ヤリマンヤリチンという言葉が直接すぎるせいか、当時ウテウテなんていう代替語が一瞬流行ったが、彼女のそういった生活は大学に入ってもしばらく続いた。付属校からエスカレーターで入学した彼女たちは、すでに完成した友人関係を武器に、大学でも大変居心地の良いポジションに座り、もともと知っている先輩が立ち上げたインカレサークルの勧誘のためにしょっちゅう渋谷や新宿に出向き、可愛い女の子やかっこいい男の子を捕まえてサークルに入れた。

サークルで千葉の海に新歓旅行に行った際にも、一つ上の他大学の男と夜は同じ部屋に泊まり、その後もちょっと肉体関係が続いた。同じ学部の男ともすぐに仲良くなった。ただ、大学も1年生が終わって2年に上がる頃に、飲み会で出会った三つ年上の法学部の彼ができてからは、「まともな恋愛の方が楽しい」と思うようになって、ヤリマン活動はしなくなった。

 

高校時代ほどではないが、数ヵ月の留学も含めた彼女の大学生活も、恋愛や遊びやサークルに彩られて、華やかに、賑やかに過ぎて行った。彼氏とは結局2年間の交際後に別れたが、その後はスポーツ新聞の記者と1年ほど付き合った。

普通の就活を経て、通信会社に入った彼女を待ち受けていたのは、高校時代には想像もしていないほど平坦な日々である。基本的に、爆笑することも号泣することもあまり起こらない。帰りの電車賃すらなくてマックで夜を明かすような不安定さは限りなくゼロに近くなったぶん、何もしていないけれど何故か満たされているセンター街での退屈な日常も無くなった。

元が生真面目だからか、会社で上司の受けは悪くなかったし、問題を起こすこともなく、普通に出世し、プロジェクトの責任者のようなポジションにもなり、30歳手前で外資系の企業に転職した。付き合っている人はいることもあればいないこともあるが、魂が昂ぶるほどの恋愛は久しくしていない。

「前の会社の条件は悪くなかったけど、そんなに辞める人もいないし、自分の未来の姿が数パターンしかなくて、それが全然羨ましくない上司とかに重なると思うと、陰鬱になるじゃん。それで、このまま終わる感じがつまんないと思って転職。ちょっと給料上がって年俸制になった以外は別に変わらないよ。外資系でも、上司も日本人だし、海外に転勤することもないし、普通の会社員。

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このまま人生終わるのかなって思う。結婚もしなきゃなとは思うけど、もうどこで折り合いつけていいのかよくわかんない。若い頃の友達も結構結婚して、結婚式とか行くと、よく妥協したなって思う」

未だに、不安定で刺激的で楽しい高校生活のような日々を身体にインストールしたまま、安定した刺激のない大人としての生活に何処と無く居心地の悪さを感じる。人生山も谷もあるのなら、またあの時と同じくらい昂ぶる山が来ないと割りに合わない。ただ、それは高校時代の刺激をインストールしたままアップデートされていない身体には、結構無理な話でもある。

「若い頃は楽しかったね、今はしょぼいけどそんなもんだよね、俺も若い時はめちゃくちゃやったけど落ち着いたわ、みたいなのってみんななんで納得できるのかな。生活レベル下げるのが難しいのと同じで、生活の楽しさレベル下げるのも難しくない?若い頃、あんなに威張って歩いてたのに、今、あの頃傅いてたような人たちと同じ立場で会社行って、普通に仕事させられて、なんか納得できないんだろうね」

結婚は、彼女にとっては、最後の砦らしい。「結婚したら、もう落ち着いた自分を認めて、しょぼい感じで生きて行くのを決めたっていう感じがしてイマイチ決断できない」という彼女が、今から刺激的な生活を手に入れるとしたら、逆に天災や戦争で最低限の幸福も失うくらいしか想像できないが、かといって見えきった未来をつまらないと思う気持ちは、同じ時代を渋谷で生きたものとして、とてもよくわかる。

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