この視点を一歩進めると、ナシーム・ニコラス・タレブの最近翻訳された著書『反脆弱性』(ダイヤモンド社)の哲学にもつながってくる。「脆弱(フラジャイル)」というのは「脆い」という意味で、その反対語というと普通は「頑強」「耐久性」などをイメージするが、タレブはそうじゃないと言っている。鋼鉄は頑強だけど、ぽきっと折れたり曲がったりしやすい。だから重要なのは頑強であることではなく、「反脆さ(アンチ・フラジャイル)」なのだという。

じゃあ反脆さとは、何か。タレブは著書で書いている。

反脆さは耐久力や頑健さを超越する。耐久力のあるものは、衝撃に耐え、現状をキープする。だが、反脆いものは衝撃を糧にする

たとえばレストラン業界は「反脆い」。ひとつひとつのレストランは脆くて、店はよく潰れる。でも個別の店が潰れることで、他の店の生き残りの可能性を高めるし、新しい店も進出できる。だからレストラン業界は全体では、反脆いということだ。もし逆に、ひとつひとつのレストランが法的に保護されて、絶対に潰れないようになっていたらどうだろう。そうするとレストラン業界には健全な新陳代謝がなくなってしまい、外食という文化そのものが衰退することになる。そうすればレストラン業界は脆くなる。

脆い世界にいるからこそ行動する

このように私たちの社会に潜む「脆い」と「反脆い」の関係を明らかにしたのがタレブの凄いところなのだが、これは私たちの人生システムにも当てはまる。会社や仕事は脆いかもしれない。でもそれらが脆いがゆえに、私たちは常にあたりに目を光らせ、次の飯の種を考えておかなければならない。「明日会社が潰れるかも」「もうすぐリストラされるかも」「今やってる仕事は10年後にはないかも」という危機感が、私たちを行動に走らせ、活動し考え抜いて行くための糧となる。そういう脆さを常に抱えているからこそ私たちは動き回り、だからこそ人生の全体システムは「反脆い」になり、可用性が高まるのだ。

最初に述べたように、これは「働く」ということのスタイルを変えるという提案である。スタイルを変えるということは、決して転職や独立とイコールではない。今やっている仕事は大切にしつつ、そして会社と上司と同僚と部下とも仲良くするのは大切だ。でもそれ以上に、心の中では、自分の人生という全体システムの可用性と「反脆さ」を常に意識し、このシステム「全体」が壊れないように計算し、戦術と戦略を立てて、前に進んで行く。いつ何どき、会社や仕事という「部分」のパーツが壊れても大丈夫なように。