「アディーレ法律事務所」とはいったい何だったのか

揺れる弁護士業界のいま
秋山 謙一郎 プロフィール

変わる弁護士界

昨年末、全国各地の弁護士会は"アディーレ・ショック"に揺れた。

業務停止を受けた弁護士への依頼は、一旦、すべて解除される。「アディーレ顧客」たちは、皆、依頼していた「過払い金返還請求」や「債務整理」といった法的サービスが途中で受けられなくなる。そのためアディーレ所属の弁護士個人と再契約し直す、もしくは別の弁護士に依頼する。あるいは、自分で対応しなければならない。

途中で止まった法サービスはどうなるのか、すでに支払った着手金の扱いはどうなるのか。のべ約5万人いるといわれる「アディーレ顧客」たちの不安を和らげなければ弁護士への信頼は地に堕ちる。

そのため東京弁護士会(東弁)を中心に、全国各地の弁護士会では大勢の弁護士を動員、電話による「アディーレ顧客」への対応を余儀なくされた。

顧客からの問い合わせが殺到することを想定して、東弁だけでも、10本の電話回線を新設し、午前9時から午後5時まで、1日40人態勢で弁護士が相談に応じた。約20日でのべ800人の弁護士を投入したという。

弁護士800人が投入された Photo by iStock

この一連の騒動に、司法制度改革反対派の弁護士たちはこう口を揃えた。

――動員された弁護士の誰かがアディーレのせいで、みずからの弁護士業務に支障を来したという理由で、損害賠償請求を起こせばいい。

しかし、実際には、そうした動きが起こる気配すらない。その背景について前出・大ベテラン弁護士はこう謎解きをする。

「年配の弁護士のなかには、感情的に"アディーレ憎し"の声はある。しかし、すでに増えつつある経済的新自由主義的な思想を持つ大勢の若手弁護士たちからの恨みは買いたくない」

 

これは2015年の東京弁護士会の副会長選挙に、当時、弁護士界の中では若手の34歳、司法修習期64期生のアディーレ所属弁護士が立候補。大方の予想を裏切り305票もの得票数を得たことも背景のひとつにある。

歴代の副会長選でトップ当選者でも909票、最下位当選者は522票。立候補時は「泡沫候補扱い」(東京弁護士会所属弁護士)にしては善戦である。

だが、何よりも弁護士界に衝撃が走ったのは、その彼が掲げた公約である。「弁護士会を任意加入団体へ」「会費半減」――。

ちなみに弁護士法には、次のように記されている。

《第八条 弁護士となるには、日本弁護士連合会に備えた弁護士名簿に登録されなければならない。》

弁護士は日本弁護士連合会(日弁連)に登録されなければその業は行えない――つまり「強制加入団体」だ。

これは戦前の暗い時代、対立する検察庁や裁判所が「弁護士監督権」を盾に弁護士の動きを封じてきた反省から、戦後は、裁判所、検察庁、法務省からも独立して、弁護士の監督権は弁護士が行う「弁護士自治」を徹底したことに端を発している。

しかし、時代が進んだ今、弁護士自治を否定する弁護士が台頭している。いわゆる経済的新自由主義の発想を持つ若手弁護士たちだ。