「アディーレ法律事務所」とはいったい何だったのか

揺れる弁護士業界のいま
秋山 謙一郎 プロフィール

ここではスキルが身につかない

時に〈商店街〉を思わせる弁護士の世界は司法修習期を軸とした官僚にも似た縦横の関係がある。加えて各都道府県弁護士会では、人権、憲法、刑事……などのテーマ別に分かれる「委員会活動」と呼ばれる勉強会がある。

この司法修習期を軸とした縦横の関係と委員会活動は、自由業でありながら弁護士同士が結束、その知識と技を先輩から後輩へと伝える場として機能している。ところがアディーレ所属の弁護士はこうした場に積極的に出ることはなかったという。

司法制度改革に反対の立場を取る弁護士はその辺りの事情を次のように推測する。
「アディーレ所属の若手弁護士が異なる事務所の先輩弁護士らと繋がり、弁護士としてのスキルをより高めていく。これをアディーレの経営陣が嫌ったのではないか」

過去、アディーレに所属した弁護士らの声を総合すると、その〈組織力〉を強みとするここでは、他の弁護士事務所とは異なり、ひとりの弁護士がひとつの事件を最初から最後まで受任することはないという。

依頼者の話を聞き取る役割、書面を作成・チェックする役割、裁判所などに出向く役割……と、分業制が敷かれ役割分担が徹底しているのだ。こうしたアディーレの人事システムについて愛知県弁護士会司法問題対策委員長の鈴木秀幸弁護士(72歳)は次のように心配する。

「これでは若手弁護士はスキルが身に付かず、将来、独立したときに困るのではないか」

実際、この役割分担に慣れてしまうと弁護士としてひとつの事件を解決する力が身に付かないという声は多々耳にする。そのためか、アディーレで新人としてスタートを切った弁護士たちは、2年、3年と勤めれば外へと去っていく者が多いという。

実際、当の"元アディーレ"弁護士たちの間からは、かつての所属事務所を悪しざまに言う声は何ら聞こえてこない。彼らは、皆、一様にこう口を揃える。

――"顧客目線"で弁護士ビジネスを学べたことは大きい。

 

弁護士界は〈サービス業〉へと舵を切る

かつてこそ法曹3者として公的な職業、即ち、〈法律家〉としての矜持が優先された弁護士だが、弁護士人口が増えたここ十数年来、その意識は、ごく一般的な〈サービス業〉と何ら変わらなくなった。その歩みは2004年のアディーレの台頭と歩調を一にする、というのが弁護士界のもっぱらの声だ。

こうした〈サービス業〉志向の弁護士が増えたことを、ベテラン弁護士たちは内心、不快に思いつつも、その疑念を封印せざるを得なかった。というのも弁護士界の趨勢は、すでに〈法律家〉としての弁護士から〈サービス業〉へと舵を切っていたからだ。

そのなかで一介の〈街弁〉で終わることなく、各都道府県や日弁連の会長といった栄達を目指す弁護士にとっては、若手を取り込まなければとても支持を得られない。今、増えつつある〈サービス業〉志向の弁護士を悪しざまにいうことは、あまり得策ではないという事情もある。前出の弁護士の大ベテランも指摘する。

「結局は、『時代を見極められるかどうか』だ。社会と時代は常に変わっていく。それを読み切れないようでは、法律に携わる者として、失格だ」

事実、先月2月9日、投開票された日弁連会長選では、経済的新自由主義を信奉し〈サービス業〉志向の若手弁護士から圧倒的支持を受けている候補者が当選した。