ラジオ深夜便

厳選!200万人リスナー『ラジオ深夜便』の泣けるエピソード

名インタビュアーの「聞く力」
200万人のリスナーを抱えながら、「無理をせず、いつでもおやすみください」と語りかける癒やしのラジオ番組、NHK『ラジオ深夜便』。落ち着いた語り口で知られる名インタビュアー・佐野剛平さんが、その会話術を『もう初対面でも会話に困らない! 口ベタのための「話し方」「聞き方」』にまとめた。200人を超える取材相手の中から、心に残る名エピソードを紹介する。

蒸気機関車乗務員の「呼吸」

『明日へのことば』というインタビューコーナーで、私は200人を超える人生の達人たちにお話を聞きました。

みなそれぞれに自分の話し方でみずからの半生や生き方について語ってくれましたが、そのなかには思いもよらない話を披露してくれる人もいました。

「昔の蒸気機関車はトンネルに入ると、運転室は煙突の煙が充満して息もできなくなるんです。そんなとき乗務員はどうやって息をしていたと思います?」

インタビュー中、逆にそんな問いかけをしてきたのは、かつて国鉄(現・JR)の機関士として蒸気機関車の乗務を長年つづけた、愛知県春日井市にお住まいの川端新二さん(88)でした。

 

川端さんは、戦時中の1943(昭和18)年に国民学校高等科を卒業して国鉄に就職し、蒸気機関車の掃除をおこなう庫内手として働きはじめたそうです。

その後、機関助士見習いとなって念願の蒸気機関車の乗務員になるのですが、当時は明治時代に掘られた狭いトンネルが各地に残っていた。そうしたトンネルにD51などの大型機関車が入ると煤煙が容赦なく運転室を襲い、乗務員を苦しめたそうです。

実際に一酸化炭素中毒になったり、なかには窒息して命を落とす乗務員もいたそうですが、そんなトンネルのなかで彼らは命をつなぐためにどうやって息を確保していたか。

その方法がおわかりですかと、彼は問いかけてきたわけです。そんなことを聞かれても皆目見当もつきません。さあ、さっぱりわかりませんと首をひねる私に教えてくれた答えは、私の想像をはるかに超えるものでした。

「蒸気機関車の後の車両には、ほら、石炭がたくさん積んであるでしょう。じつはそのなかに空気が含まれているので、そこに顔を突っ込んで息をしたんですよ」

これにはさすがに驚きました。なるほど、砂の山には空気はないでしょうけれども、ゴツゴツした石炭の山なら空気がある。そのわずかばかりの空気を機関士は代わる代わる吸って息をつなぎ、機関車を動かしていたというのです。

現在なら労働安全上おおいに問題のありそうな話ですが、蒸気機関車が動力輸送の主役だった時代、そんなことが当たり前におこなわれていた。

それよりもなによりも、石炭の山に含まれている空気にすがって機関車を動かしていたという知られざる鉄道秘話にふれて私は驚き、深い感慨を覚えたものです。

それにしても、なぜこの元機関士の川端さんは、こんな話をはじめたのでしょうか。

もちろんインタビューをはじめて、すぐにこの話になったわけではありません。それどころか、インタビューがはじまった当初コチコチで「はい、それについてはこうで あります」といった受け答えをされていました。

このラジオ番組のインタビューに登場されるのは、しゃべり慣れた人ばかりではありません。放送メディアに登場するのは初めてという人も多いですから、生真面目な人ほど、こうした四角四面の受け答えになってしまいます。

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