国際・外交

金正恩がトランプに訪朝要請せざるを得なかった「本当の懐事情」

経済データから背景を読み解く

南北首脳会談開催への電撃合意、そしてトランプ米大統領の訪朝要請というビッグニュース。北朝鮮の最高指導者・金正恩は昨年の対決路線が嘘のように、融和姿勢へ舵を切っている。

その背景に、国際社会による経済制裁がボディブローのように効果を上げているという認識が広がっている。最新刊『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』で北朝鮮経済の実態を余すところなく記した五味洋治氏が、北朝鮮の最新経済事情と金正恩による融和姿勢の狙いを説く。

カギを握る「赤い資本家」

北朝鮮を訪問した韓国大統領府の特使団が、南北首脳会談開催、そしてトランプ大統領への訪朝要請というビッグニュースを持って帰国した。

「米国とは対話してもいいが、核は放棄しない」「米韓の合同軍事演習は中止せよ」と主張していた金正恩・朝鮮労働党委員長が、「非核化の用意があり、軍事演習も理解する」と、突然大幅に譲歩したことになる。

その背景には国際社会からの経済制裁の影響があったと見て取れる。閉鎖され外から窺い知れない北朝鮮経済に何が起きているのだろうか――。

 

金正恩体制下で北朝鮮経済は、意外にも着実に成長してきた。

韓国銀行(中央銀行)が昨年7月に発表した推計によれば、北朝鮮の2016年の経済成長率は3.9%。1999年(6.1%)以来、実に17年ぶりの高さとなった。

輸出・輸入ともに伸び率が4%台後半で、経済成長を引っ張った。また金正恩は、核・ミサイル開発に惜しみなくカネを投入する一方で、国内の在来市場を全国に400カ所以上に拡大させている。国民はこの市場で農作物や工場で生産された物資を売買し、マージンを稼いでいる。

そんな市場でたくましく稼いだ住民のなかから生まれた、赤い資本家と呼ばれる「金主(トンジュ)」も経済活性化に大きな役割を担う。

金主は、新興富裕層の総称で、おおよそ1万ドル以上の資産を保有する住民の呼称だ。「金主」の数は最低でも数万人、最大で20万人を超えたとする説もある。

韓国政府系のシンクタンク国家安保戦略研究院のイ・ジュンニョク研究委員の論文「北朝鮮の財閥 金主」によれば、金主は高級乗用車に乗り、韓国を代表するサムスンのTVをこっそりと家に入れ、高級プールやジムに通う。

新しい携帯電話が発売されればすぐ購入し、100ドル分をチャージした海外通話も可能なカードを使い、韓国のSNSアプリ「カカオトーク」も楽しむ。彼らは「ドルさえ見れば石仏も笑う」(カネが全てを動かす)と話しているという。

そんな金主が急増した平壌のスーパーでは、大型冷蔵ショーケースが備え付けられ、エマール(洗剤)、ブルドックソース、山崎(ウイスキー)など日本製品があふれる。またスマホ通販も可能で韓国の最新デザインの洋服も、北朝鮮内から発注すれば中国国境を経由して数日で配達されるという。

貧しく、飢えた国というイメージは過去のものになりつつあるのだ。

これは正恩の成果と言えるだろう。核・ミサイル開発により自国の安全を確保し、経済もそれなりに成長させる――正恩は、父の金正日総書記もできなかったことを成し遂げたのかもしれない。私は新刊『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』で、この金正恩の経済の実力について詳しく書いている。

ところが、ここに来てその経済に黄信号が点ってきた。

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