「これからはロボットとともに生活するのがあたりまえの時代が来る。そして日本は、ヒューマノイドロボット(人型ロボット)の分野で世界と戦っていける」――。

そう語るのは、『AIロボットに操られるな!』の著者で、日本でセグウェイの販売を行なう、セグウェイジャパン株式会社 代表取締役社長の大塚寛氏だ。

時代に変革をもたらす「パラダイムシフト」。今私たちは次なるパラダイムシフトを経験している真っ只中だと言う。これから社会はどう変わるのか。そして日本の勝機はどこにあるのか。

取材・文/平原悟

セグウェイと並ぶ大塚寛氏。セグウェイは「ちょっとそこまで」行くのに最適な乗り物だ Photo by Riki Kashiwabara
大塚寛(おおつか・ひろし)
米国スーパーコンピューターメーカーからITサービスまで経験した後に、新規事業開発を2000年から従事。特にロボット分野に対してサービスを創出する事を行い、様々な自治体や大学などへ講演活動も行なっている。イノベーション企業の取締役や顧問などに従事している。

パラダイムシフトを先読みする

これまでに常識が覆り、社会全体の価値観が変化する――。そんな「パラダイムシフト」が、1990年代以降、アメリカを中心に断続的に発生してきました。皆さんがお使いのiPhoneもまさにその例です。一つの製品で人間の生活がガラリとかわる。

技術の進化によるパラダイムシフトは常に起きるのですが、そのシフトを事前に察知することがビジネスではきわめて重要で、その点に関してアメリカは非常に長けています。

例えば電気自動車のテスラはGMやフォードが破たんに向かっていく中で、化石燃料から電気へのシフトをいち早く見出した。しかも、車のモジュール化を進めて、従来の製造業概念を変革しようとしている。これにより、近い将来は自動運転になる、という道筋までが彼らの登場によって見えてきました。

これに対し日本は、技術的には先行するものも多いのですが、法律が邪魔して実現できないことが少なくない。非常に乱暴な言い方をすると、アメリカでは新しい技術に合わせて法律が作られるのに対し、日本は現在の法律の中でできることをしなさい、ということになっている。

そこのジレンマが日本でパラダイムシフトがうまくいかない要因。これは大きな課題と言えるでしょう。

セグウェイの可能性

ただ、ロボットに関しては日本に大きなチャンスがあると考えています。

1990年代後半、私は当時勤めていた米国のコンピューター会社で、茨城県つくば市の支店に赴任をしていました。つくば市は、国内の最先端研究所が数多くあり、最先端の研究者と接する中で、ある予感を感じました。人工知能とロボットで、日本は世界に勝てるのではないか――と。

当時はロボットといえば産業用のイメージでしたが、彼らの研究を見ていると、これからは非産業用ロボットの到来で、ヒューマノイドロボット(人型ロボット)や人工知能ロボットなどが必ず来ると確信をしていました。

その矢先、ニューヨークでテロがあり、直後にスタンフォード大学のロボット研究者が人命救助のレスキューロボットを実際の現場で利用しているのを見て、ロボットビジネスの可能性についてさらにその思いを強くしました。

同時に思ったのが、当時、日本は完全に人型のヒューマノイドロボットが取り上げられていましたが、環境に合わせた車輪型ロボットなども考えられると思いました。

それから数年後の2005年、セグウェイの車輪型ロボットに出会いました。ジャイロセンサーと加速度センサーで移動を行うことが出来て、その場で360度回転できるセグウェイは、まさに人間のような動きを可能とするものでした。

セグウェイを発明したのはディーン・ケーメンさんですが、その原点は段差が登れる車椅子でした。車椅子のおばあちゃんが段差に苦労している姿をみて、人間のテクノロジーはロケットを飛ばすところまで来ているのに、車椅子がたかだか数センチの段差も登れないのか、と思い開発を始めたのです。

それで特許も取り、次のステップとして平面を簡単に楽しく移動できるものへと発展し、今のセグウェイが誕生したのです。

そうした過程を見てもかわるように、セグウェイはかなり人間用に作られている。例えば人は2kmも歩けば疲れますよね。その点、セグウェイの最適な走行面積は半径10km以内とかなり広い。

しかもセグウェイの操縦は、中に搭載されているジャイロセンサーと加速度センサーだけで、アクセルやブレーキの役目を担っている。体重移動だけで、直感的に動かせるのです。セグウェイはまさに人間の足に感覚が近いのです。

セグウェイの操作性を一度体験すると、その自然さに驚くはず。特に女性は「なにこれ、簡単じゃない」と、素直に喜んでもらっています。

セグウェイの使われ方は大きく2系統があり、その一つは観光名所などを巡るセグウェイツアーです。セグウェイツアーのユーザーは、全世界共通で圧倒的に女性の割合が多い。それだけ移動が簡単で楽しいことの証明だと思っています。ただ、実際に体験しないとその楽しさがわかりにくいというのがジレンマですね。

これに対し、もう一つの利用シーンは警備などのセキュリティです。こちらは世界的にかなり定着しています。警察官がセグウェイで町を巡回するようになると、軽犯罪が減ることは定量的に証明され、アメリカやヨーロッパで拡大しています。

日本でも、かつて東京ビッグサイトで実験的にセグウェイを導入したところ、警備員の巡回回数が増えたので、いつもは多く現れるダフ屋がいなくなったことがありました。日本では最近、羽田空港にて警察官がセグウェイに乗りパトロールしており、公道も走れるように法律が見直されれば、セグウェイのマーケットが一気に広がると思っています。