見た目が悪いものほど旨いという
医療・健康・食

探して隠して掘って食う…春の激旨食材「じねんじょ」を巡る戦い

狩猟民作家が秘伝を伝授
阿井渉介さん。凄まじいじいさんである。
本職は、主に推理小説や海洋小説を手がける作家で、『特捜最前線』や『ウルトラマン』シリーズの脚本家としても活躍していた。御年76歳になるこのじいさんの何が凄まじいのか。
地元焼津の友人漁師たちから「俺たちより漁師らしい」と感嘆される男は、机の前で仕事をすることを好まず、締め切りがなければすぐに海へ山へ繰り出す。その狩猟民の心が高じて、2001年、ついに大海原に繰り出す。
ウナギの産卵地特定のために、太平洋をマリアナ諸島沖まで航海に出る東京大学大気海洋研究所の研究船・白鳳丸に無理やり乗り込んだのだ。世界を驚愕させた「ウナギの卵」発見の現場にも居合わせたのだが、何より凄まじいのは、その後、この研究チームの青山潤氏(現東京大学教授)とチームを組み、約70年ぶりに新種のウナギを発見してしまったことだ。2009年、フィリピンの人里離れた山岳地帯の清流で発見されたのだが、このとき、阿井さん67歳。若い研究者がギブアップしたほどの厳しい熱帯のジャングルを踏破しての偉業だった。
そんな狩猟民作家が先達として、旬の山海の旨い食材を「穫って食う」ための秘伝を教えてくれる。その獲物は早春の美味、天然の自然薯(じねんじょ)。

見つけたら、まずその在処を隠す


「やまいも」とは山芋、つまり山にできる芋のことだ。が、いま「やまいも」=山芋=自然薯ではなくなっているようだ。

俳句では秋の季語で、秋が旬とされている。スーパーやデパートに、薄(すすき)の苞(つと)にくるまれた姿を見掛けるのも晩秋のころだ。

 

山中の「道の駅」などに、ふるさとの香りなつかしく佇(たたず)んでいることもあるが、絣(つむぎ)の着物に赤いたすき掛けの売り子嬢が、たいてい嬢ではないように、中身は「やまいも」に似たものでしかないと思われる。

里の芋「さといも」ではなく、山の芋だから「やまいも」なのであって、ずから天に生い立つなのだ。雑木に伝い上って葉を茂らせ、秋にムカゴをつけ、このムカゴが地に落ちて地中にもぐり、数年かけて薯になる。

いま店頭で「自然薯」と称して売られているものは、99パーセント、と決めつけるのは当てずっぽうだが、多分それ以上の割合で畑の作物だ。

自然薯を採る困難を考えれば、養殖を考えて当然とも言える。養殖の「ヤマイモ」の白くすんなりした姿と、自然薯の屈折しだらけの形相を比べれば、「ヤマイモ」のほうがおいしそうに見えるかもしれない。「ヤマイモ」の味、香りは、確かに自然薯を追想させるものではあるのだが……。

スーパー等で見かける「ヤマイモ」。見た目はきれい(photo by istock)

秋の山で、まだ深緑に繁茂する木々に攀(よ)じ、先駆けて黄葉し、輝くばかりの自然薯の葉群は、眼福だ。一葉ずつを見れば、ほっそりとしたハート型をして、可憐だ。

ところが、この黄葉を眼の仇にする者がいる

不肖私を含む無粋者どもは、黄金色の葉群を遠望すると、その元に駆けつけ藪の中を這(は)いまわる。自然薯の蔓(つる)は地にのたくって、やがて木に上るものが多い。近くの低木に上って、そこから高木に蔓を延ばすものもあり、ずいぶん離れたところに本拠があることが多い。

藪の中には無数の蔓植物が延び上がっていて、どれが目当ての蔓か、判別はまず無理だ。蔓を一本一本引っ張って、下から透かし見て自然薯の葉が揺れるか試すのだが、落ちてきた枯葉や木の皮、虫などが首根っこに侵入して、気色悪いことおびただしい。

蔓を特定できたら、根元から断ち切ってしまう。それから、上に延びて下生えや藪にからみついている蔓を引きちぎってしまう。直径1~2㎝のムカゴがばらばらと落ちてくることもある。拾い集めて、あとで塩をまぶして炒ると、ビールに合う。ムカゴ飯も風味がいい。とにかく、できれば葉の繁りまで全部を引き剥がし、引きずってゆき、遠くに捨てる。

黄色く色づいた自然薯の葉

なんのためにこんなことをするのか?

地下の「いも」を守るためだ。

放っておいても、自然に蔓は「いも」を離れるが、「いも」の在処(すみか)の上空にふらふらと残る。蔓の第一節は地上数センチに残って、新たな目印になる。だから、これも切ってしまう。これをやっておかないと、葉や蔓を目印に「いも」を掘り取られてしまう。「いも」が本当に旨くなる時期を知らない、あるいは知っていてもそれまで待てない者たちに、だ。

残った蔓の第一節の色が緑か黄色か見ておく。黄色のほうが、「いも」が旨い。黒い斑点があれば、地下の「いも」は極上だ。

そして、なお数ヵ月、「いも」は地に抱いていてもらう。もう光合成によって「いも」が太ることはないが、蔓が「いも」から離れた個所から地表直下、八方に太い髭根(ひげね)が這い出ている。これがなお朽葉などから養分を吸う。「いも」にも、細い髭根があって、水分養分を吸っている。

このように、秋のうちに蔓や葉を除き去った秘密の「いも」の在処を、地図上に記しておく。しかし、秋の山と冬の山では、様相が一変する。「いも」の在処がわからなくなってしまう。

そのために目印を残す

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