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なぜシリア内戦は終わらないのか?激化する3つの「戦争」

「イスラーム国」壊滅後の行方
末近 浩太 プロフィール

トルコによるクルド人勢力に対する戦い

第3の「戦争」は、トルコによるクルド人勢力に対する戦いである。

トルコは、PYDを自国内で活動するクルディスタン労働者党(PKK)と同じ「テロリスト」と認定しており、シリア領内におけるロジャヴァによる実効支配地域の拡大を自国の安全保障上の脅威と捉えていた。

むろん、トルコにとっても、ISは正真正銘の「テロリスト」であった。しかし、トルコはそのISに対する「テロとの戦い」を、ロジャヴァの牽制のために利用した。

それを象徴したのが、2016年8月に発動された「ユーフラテスの盾」作戦であった。トルコは、ISの掃討を名目に、ユーフラテス川を越えマンビジュ市を攻略したYPG-YPGに対峙するべく、シリア領内へと部隊を進駐させた。

そのため、トルコの米国に対する態度がアンビバレント(二律背反)なものとなったのは道理であった。すなわち、米国が主導するISに対する「テロとの戦い」には賛同したものの、その米国がロジャヴァを支援することには反対した。

とりわけ、上述の2018年1月のYPG-YPJを主体とする「国境治安部隊」の創設は、トルコにとって到底見過ごすことのできない米国の「暴挙」であった。

 

これを受けて、トルコのレジェップ・エルドアン大統領は、ロジャヴァを構成する主要3地域の1つアフリーンへの大規模な軍事侵攻、「オリーヴの枝」作戦の発動を宣言し、トルコ国内で訓練したシリアの反体制諸派の武装勢力――トルコが支援してきた自由シリア軍(FSA)――とともに部隊をアレッポ県北部のアアザーズへと進駐させた。

こうして、シリアの北西部には、トルコとシリアの反体制諸派による実効支配地域が出現した。

ここでも注目すべきは、こうしたトルコによる一連の軍事行動が「テロとの戦い」により正当化されたこと、そして、そのターゲットである「テロリスト」には、ISとクルド人勢力の両者が恣意的に含められたことである。

交錯する三者三様の「テロとの戦い」

以上見てきたように、ロシアとイランの支援により、シリアの国土の大半を支配するまでに勢力を回復したアサド政権、米国の支援により、北東部に実効支配地域を確立しつつあるクルド人勢力、そして、北西部に進駐したトルコ軍と反体制諸派――「IS後」のシリアでは、これらが三者三様の「テロとの戦い」を展開している。

地図:米国の「戦争研究所」による「シリア情勢報告(2018年2月7〜21日)
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そして、その三者三様の「テロとの戦い」は、世界を震撼させたISの脅威の記憶を利用し、恣意的に「テロリスト」を定義しようとしている点で共通する。

つまり、「共通の敵」としてのISの壊滅後のシリアに残されたのは、「テロとの戦い」を名目にした異なる3つの陣営による自らの利益の極大化の営みであった。

そして、その利益とは、旧来からの「テロリスト」にできるだけ大きな打撃を与えることであった。

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