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熟年離婚から10年、2度目の結婚記念日を迎えた父と母とぼくの未来

現役証券マン「家族をさがす旅」【6】
町田 哲也 プロフィール

母の思わぬ告白

検査が終わったのが、17時前。やはり大腸に傷は見つからず、小腸からの出血の可能性が高いとのことだった。

血管造影剤を入れてCTスキャンを撮る必要があり、また同意書にサインをする必要があった。大量に輸血をしているが、出血があるため血圧が上がらない。本人の意識がはっきりしていることが救いだった。

父は、母の前でよく涙を見せるようになった。もうわがままはいわないので、一人きりにしないで欲しいといっているらしい。見捨てないでという声を、母はどう聞いたのだろうか。

 

「今までいろいろあったけど、許してあげたいと思うの」

控室に戻ると、母は真剣な表情を向けた。

「どうするの?」

「お父さんが持ちこたえてくれたら、今さらだけど、また籍を入れ直すかもしれない」

「それでお母さんが問題ないなら止めないけど、本当にいいの?」

「私はそれでいいと思ってる」

直接的なきっかけは、父が涙ながらに許してほしいといったことだという。それは事実かもしれないが、ぼくには母がもう少し前から決めていたと思えてならない。

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離婚して父が家を出てから、母はそれなりに落ち着いた生活を取り戻していた。子どもは独立しているので家では一人暮らしだが、社会保険労務士の資格も取ることができた。まだ仕事は十分ではないが、事務所を構え、いつでも仕事ができるように研修も受けている。

姉の出産後のサポートもこなし、忙しいながらも充実していた。そんな生活を送りながら、プレハブで生活している父が不憫に思えたのではないか。父の病気に気づかなかったことを、気にしていたのも事実だろう。

19時頃、休んでいるはずの八木医師が集中治療室に現れた。おそらく状況がわかったのだろう。今後の方針について説明を受けた。

今まで認識していなかった潰瘍が、十二指腸の奥に確認できた。前回手術した場所のさらに奥で、腐りかけて出血しているという。2度目の手術が必要になるが、懸念されることが二つある。

一つは出血がいつまで続くかわからないこと。輸血と点滴を継続しているが、血圧は50くらいにしかならない。二つ目は、2度目の手術は体力を消耗することだ。持ちこたえられるか、かなり危険な状態にある。

本人に生きたいという気持ちが強いからか、体力は決して衰えていないというのが、看護師の印象だった。意識はしっかりしており、自分の名前もいうことができる。手術の準備をするのにあと1時間ほどかかるとのことで、ふたたび待合室で待機することになった。