「ずっと昔、クリーニング店は一種の『御用聞き』だったんですよね。お客さんの自宅に伺って、洗濯物を預かって、仕上がったら届ける。

ところが、結婚後も仕事を続けたり、パートに出かける女性が増えて、日中の在宅率が下がった。定期集配だと無駄足が増えるので、『御用聞き』をやらなくなった。

それなら、オンデマンドでやったらどうだろう…と考えました」

当時はまだインターネットも携帯電話もないので、オーダー受付は電話だった。それでも、「電話一本で取りにうかがいます」のチラシを配ると、独身者ばかりでなく、夜勤で日中の時間が取れない人からもどんどん注文が入ってきた。

デリバリークリーニングのサービスは、坂田氏の目論見通り、潜在的なニーズを掘り当てたのだ。

ただ、当時のクリーニング業法では、無店舗営業が認められていなかった。そこで、坂田氏は自宅マンションの一室を「取次店」として届け出ることにした。

また、当時はクリーニングの実務を工場に委託していたので、繁忙期になると持ち込み品が後回しにされてしまう。そうなると、納期に間に合わない。真夜中、依頼先の工場に出向いて「明日の昼までに仕上げてください」とメモを付けたり、仕上がった衣類を自分で袋詰めしたこともあった。

「この『助走期』には、いろんな苦労がありました。けれど、不便だなぁ、不利だなぁと感じること、つまり『不』にこそビジネスチャンスがあるんだ、ということを学んだ時期でもありました」

従業員数そのまま、仕事は1.5倍に

2001年には、トゥトゥモロウは福岡市内にデリバリー拠点を3つ、自社工場を1つ保有するまでに成長した。

事業は順調に伸びていたが、電話やFAXで注文を受け、さらに電話でデリバリースタッフに指示を出すアナログ方式だと、効率が悪い。また、注文のたびに詳細を台帳に記入する手間もある。転記作業にはミスが付きものだし、事業が拡大するにつれて管理スタッフを増やさざるを得ず、頭を悩ませていた。

「でも、少数精鋭で運営するしかありませんから、スタッフが指示待ちじゃ困るんです。シャレのようですが、全員が自立して、自律的に動かないとやっていけない」

坂田氏は当時、すでにそう考えていた。

「ウチでマネジメント能力を習得したいという人もいれば、ITに習熟したいという人もやってくる。若い会社ですし、自然とそんな社風になっていました。何に興味をもっているのか、何をやりたいのか、社員が10人いれば10通りの答えが返ってくる。

このころは、そうした様々な関心を持つ社員たちと、なるべく一緒に夕ご飯を食べたりして、意見を聞く機会を作るようにしていました」

こうして考え出したのが、当時普及しつつあった、インターネットと携帯メールを組み合わせた受注管理システムだ。

クリーニングの依頼が電話やFAXで入ると、依頼者の近くにいるデリバリースタッフに携帯メールで集荷指示が届く。集荷指示に「何時ごろ」という情報が含まれているのがミソ。これなら、デリバリースタッフも無駄足を踏まずに済む。

クリーニング店向け業務システムの多くは、単に預かった衣服を管理するためのものだ。だが、トゥトゥモロウはそれだけでなく、顧客満足度と顧客との関係性、さらにスタッフの就労満足度まで向上させるシステムを構築することに成功した。

当時はまだ言葉こそ存在しなかったが、これこそ、ビジネスの中身と連動した本質的な「働き方改革」と言えるのではないだろうか。

現在、トゥトゥモロウ本社の従業員は、パート・アルバイトを合わせて36人と、10年前からほとんど増えていいない。にもかかわらず1日当たりの訪問件数、ネット予約件数はそれぞれ1.5倍に増えている。