不正・事件・犯罪

「無実の親が刑務所に送られようとしている」ある学者たちの訴え

「揺さぶられっこ症候群」を問う④

「もっと早く取り組むべきだった」

「虐待は絶対に許されません。では、虐待をしたと誤って判断されてしまうことはどうでしょうか。そのような判断によって無実の養育者から子どもが引き離されるかもしれません。無実の親が刑務所に送られてしまうかもしれません。このような養育者や子供が一人でも出てしまうことが許されて、本当によいのでしょうか」

2018年2月10日、『揺さぶられる司法科学 揺さぶられっこ症候群仮説の信頼性を問う』と題した国際シンポジウムが、龍谷大学・犯罪学研究センター主催で開催された。

8時間にも及ぶプログラムの最後に、200名を超える聴衆を前にきっぱりとした口調でそう訴えたのは、甲南大学法学部教授の笹倉香奈教授だ。

 

この日のシンポジウムには、イギリスから神経病理学者、アメリカから法律家2名、さらに、日本国内からは複数の脳神経外科医や法医学者、法学研究者、弁護士、そして「揺さぶられっこ症候群(通称:SBS)」で虐待を疑われた当事者らが登壇。この理論をもとに養育者が逮捕、起訴、親子分離されている現実と問題点について、さまざまな立場の専門家によって講演やディスカッションが行われた。笹倉氏もその登壇者の一人だ。

刑事訴訟法を専門とする笹倉氏は、2011年から1年間、アメリカで冤罪事件を無償で調査・救援する「イノセンス・プロジェクト・ノースウェスト」という団体の活動にかかわった。その後、日本では2016年から「えん罪救済センター(イノセンス・プロジェクト・ジャパン)」の副代表を、そして2017年に立ち上がった「SBS検証プロジェクト」の共同代表も務めている。

アメリカでは2007年、SBS理論によって有罪が確定した事件がすでに無罪になっています。それ以前にも確定審の段階で無罪となった事件はあると思います。アメリカのイノセンス・プロジェクトは1990年代以降、主にDNA型鑑定を使ってえん罪を晴らす活動をしてきましたが、揺さぶられっこ症候群に関する事件は、『DNA型鑑定の次の、イノセンス・プロジェクトだ』とも言われているのです。

今振り返れば、もっと早くこの問題にも取り組むべきだった……そう思っています」(笹倉氏)

実はいま日本で、「乳幼児揺さぶられ症候群」にからんだ、深刻な虐待事件のニュースが相次いでいる。

つい最近目にした見出しの、ほんの一例を挙げてみると……。

■乳児揺さぶり暴行疑い 大阪府警が両親を逮捕、左半身まひの重度の後遺症(産経新聞 2018.3.3)

昨年4月、当時生後8カ月だった長男が、急性硬膜下血腫や網膜出血などのけがを負い、左半身まひの重度の後遺症が残ったという事案。医師らの所見によって「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)」の可能性が高いと判断され、一緒に自宅にいた両親が逮捕された。しかし、二人とも「暴力をふるったことはない」と否定。「つかまり立ちをしていて後ろ向きに倒れたと思う」と説明している。

『4カ月男児 虐待疑い 硬膜下血腫 大阪の20代両親逮捕』 (神戸新聞社2018.2.8) 

この事件は昨年4月に発生。両親は発覚当初「ベビーカーに乗せていて転倒した」と説明していたが、大阪府警が複数の医師に鑑定を依頼したところ、「揺さぶりなどによるもので、転倒では生じ得ない傷」と判断され、10か月後に傷害容疑で逮捕された。男児は児童相談所に保護され、現在も施設で治療中だが、目に障害が残る可能性があるという。

■乳児揺さぶり重傷 父親に執行猶予付き判決 (関西テレビ 2018.2.22) 

3年前、生後3ヵ月の長男に激しく揺さぶるなどの暴行を加え、急性硬膜下血腫などのけがをさせたとして逮捕された父親(25)。本人は、「意図的な暴行はない」と無罪を主張していた。

しかし、大阪地裁は検察側の医師の証言などから「長男のけがは強く揺さぶる暴行によるもの」と認め、「それが出来るのは当時、長男を風呂に入れていた被告しかいない」と指摘しながらも、「犯行までの育児に問題はなかった」として、懲役2年8ヵ月・執行猶予3年を言い渡したという。

このほかにも、「揺さぶり」「虐待」「逮捕」といったキーワードで検索すると、

■4カ月男児虐待の疑い 母親逮捕、揺さぶりか 大阪(四国新聞社2017.12.6)
■2カ月の孫 揺さぶり死亡 祖母に懲役6年求刑(よみうりテレビ 2017.9.25)
■1カ月の乳児を暴行して死なせた疑い、父親を逮捕 大阪(朝日新聞2017.8.1)

など、枚挙にいとまがない。

ちなみに、祖母(66)が「生後2カ月の孫を強く揺さぶり死亡させた」として懲役6年を求刑された事件では、本人も家族も当初から、「決して虐待などしていない。突然赤ちゃんの容体が急変した」と無罪を訴えていた。しかし、昨年10月、懲役5年半の実刑判決を言い渡された。

今年3月、大阪拘置所からようやく保釈された祖母は控訴しており、現在、大阪高裁で刑事裁判が継続中だという。

直接的な証拠はないのに

首が座るか座らないかという赤ちゃんが、これほど頻繁に重篤なけがを負ったり亡くなったりしているという現実には驚くが、ここに挙げた報道を見る限り、一緒にいた保護者たちが「揺さぶりによる虐待」を自白したケースはなく、またそれを裏付ける直接的な証拠はない。いずれも『検察側の医師の証言』などからそのように推測し、判断されていることがわかる。

実は、『揺さぶられっこ症候群を問う』の本連載①~③で取り上げてきた乳児虐待事件も、まさに同様のパターンだった。(詳細は「乳児虐待の疑いで逮捕された母の、悲痛な叫び」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53525 をお読みください)

生後1カ月半の我が子を、「殺意をもって」強く揺さぶったとして殺人未遂で逮捕された母親は、子どもの受傷から9カ月後、傷害で起訴され、今年1月、検察側から懲役6年を求刑されている。

彼女も当初から、「落下事故が複数回起こった」と説明し、取り調べの段階から一貫して「虐待などしていない」と無罪を主張してきたが、結果的に、「検察側の医師の証言」によって、「揺さぶりによる虐待」と判断され、刑事裁判にかけられた。

そして子供は二人とも、児童相談所の保護下に置かれ、長期間の親子分離を余儀なくされた。

大切な我が子が突発的な事故で大けがを負う……親としてはそれだけでも身を切られるようなショックを受け、自責の念に駆られるはずだ。しかし、その上に、もし身に覚えのない「虐待」の疑いまでかけられ、子どもとも引き離されたとしたら……。

一方で、世の中にはわが子に対して信じられないような虐待をする親がいるのも事実で、医師や捜査関係者、児童相談所の職員など、子供を救うために懸命に虐待から子どもを守る活動を続けている人たちがいる。

子育て中の世帯は今、この問題をどうとらえていけばよいのだろうか。

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