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「人間VS人工知能」投資の世界ではトンでもないことになっていた

まるでSF、でもこれが現実…
小出 フィッシャー 美奈 プロフィール

マシーンが引き起こす市場の混乱

しかし、「投資」とは本来、企業の一部のオーナーとなり、株主として企業の将来にコミットする行為である。その基本にある考えは、長期の視野に基づく企業とのパートナーシップであり共生だ。

一方、大手クオンツファンドがやっていることは証券取引所との間に私的な高速専用回線を敷き、証券取引所が売買確認をするのに使う公式回線のスピードを数十マイクロ秒出し抜いて鞘抜きをする、といったことだ。それは投資ではなくて、まばたきするより短い間隙を狙った超・超短期の「投機」、マネー・メイキングだ。

 

そこには投資家と企業経営者との対話もないし、資本を提供することによって企業が社会で果たすミッションを支援する投資の本来の役割も、無縁なものとなる。企業の社会的責任を考えて投資しようというESG(E=環境、S=社会、G=ガバナンス、企業統治)の発想も、マイクロ秒投資にはそぐわない。

人の顔の見えない取引の増加は、思わぬ市場の混乱につながる恐れもある。

例えば多くのクオンツファンドが、株価が一定水準以下に下がれば自動的に「損切り」するとあらかじめプログラムした場合、市場が予想以上に下落する局面ではクオンツファンドから一斉に売り注文が自動的に出て株価を押し下げ、それがトリガーになってさらに新たな売り注文につながるというスパイラルが発生する。

過去にも2007年8月の「クオンツ・クウェーク」や2010年5月の「フラッシュ・クラッシュ」など、前触れなく短時間に市場が極端な動きをする奇妙な現象が起きている。

特にリターンを膨らませるためにレバレッジ(借入金による資金投入)をかけたクオンツファンドが混み合った市場で同じようなプログラムを組んでいると、ひとたび市場に何らかのショックが起きた時、自動的に売りが売りを誘発し、含み損で追証が発生したり、ファンド解約に応じるにも手持ち現金が足りずさらに資産を売るという状況となり、市場変動が一気に高まってしまう。

人工知能に責任はとれるか?

クオンツ擁護者達からは、今のファンドはリーマンショック前ほどレバレッジが高くないし、さらにAIファンドなら多様な演算処理をこなすから同じトレードが集中するリスクも低い、むしろクオンツは市場の調整弁として変動を緩和しているのだという意見もあるが、どうだろう。

勝つ株のパターン認識を「ディープ・ラーニング」で習得した人工知能が持続可能な超過リターンを上げてくれるのなら、それこそアクティブ・マネジャーなどお払い箱になってしまう。

ただ、AIファンドでは、人工知能がどのような思考回路を辿って特定の売買の決断をしたかは、人間に見えない「ブラックボックス」となることに注意しなければならない。AIファンドによる市場の大クラッシュが起きても、理由さえ分からないという事態も起こり得る。

人間のマネージャーなら少なくとも失敗した時の弁解くらいはしてくれそうだが、AIが果たして膨大な演算処理に基づく決断を、人間に分かる言葉で解説してくれるだろうか。いざという時に説明責任のとれないブラックボックスに何百億円という大きな取引を任せて本当に良いのか、熟慮が必要だろう。

多くの「人間」ファンドマネジャーは、顧客マネーを預かる代理人としてのフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)を認識し、長年の投資経験を経て、自分の投資スタイルやポリシー、投資哲学を持っている。てっとり早いリターンが稼げそうな機会が見えても、それは顧客から信任された自分の投資スタイルの範疇ではないと考えて、手を出さない場合も多い。

人工知能はそうした己と顧客を知り、説明責任も含めた受託者責任を全うできる「投資家」になれるのだろうか。それを見極めるのはこれからだ。

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