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「人間VS人工知能」投資の世界ではトンでもないことになっていた

まるでSF、でもこれが現実…
小出 フィッシャー 美奈 プロフィール

ベテランになるほど「直感」重視

しかし、「人間」ファンドは、最終決定はあくまでも人の判断という有機的な処理である。そこにはマネジャーの分析や経験や勘、好き嫌いなど、数値化できない要素が多く含まれる。彼らが頭の中で繰り返す情報スクリーニングは、どんどん枝葉末節が削られて抽象化された思考プロセスとなっていく。

彼らは、投資先銘柄の全ての事業を正確に把握するわけではない。ファンドの上位銘柄や、この株は行けそうという確信度の高い「コンビクション銘柄」については、その利益を左右する主要事業を深く理解する努力を惜しまないが、優先度が低い銘柄の非コア事業は知らなくても平気。情報取捨のフィルタリングに納得が行けば、あとは重要情報だけを大づかみするのだ。

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企業の理解の仕方についても、今期の地域別品目別売上といった細かいデータを抑えるのではなく、その会社が数年先にどれくらいの企業に育っているのだろう、などざっくり感覚的な捉え方をする。

彼らは投資に知識は重要だと理解しているが、一方で知識だけが株のパフォーマンスにつながるわけではないことも経験則として知っているからだ。

 

ベテランになるほど、過去何度も積み重ねてきた自分の情報フィルターや長期にわたる市場観察に基づく経験が「直感」として昇華されている。こうしたファンドマネジャーは、廊下やエレベータの中でアナリストと短い会話を交わしただけで、株を買ったり売ったりするが、それは、頭の中の有機的なスクリーンを情報が通過したからだ。

このレベルになると、投資もマニュアルを超える「匠の世界」となる。将棋やチェスの高段者には「駒の利きが見える」と言うのと似ているかもしれない。彼らには勝つ株のパターン認識ができるのだ。

日本にも進出する「AIファンド」

一方、人間の有機的判断を排除し、無機的な「条件スクリーニング」だけを推し進めたものが、「クオンツファンド」だ。

クオンツはファクター投資とも言われるが、複数の数量的な条件をあらかじめコンピューターにインプットしておき、それに合致する株をプログラム取引で自動的に売買する。

組み込む条件としては、売上利益やROEなどの財務情報、PERやPBRなどの株価情報の他、来季利益のコンセンサス予想、「ベータ(株価の市場連動性)」や為替、原油価格変動に対する感応度、株が上向きか下向きかという「モメンタム」やその他のテクニカル要因など、無数の組み合せが可能だ。

過去の市場でどういう株がどういう時に強いパフォーマンスをあげたかという「必勝モデル」を統計データに基づいて設定することもできる。

世界最高峰の数学博士らを抱えこんだ近年のクオンツファンドのアルゴリズムはきわめて高度なものになっており、株のチャットルームで特定のキーワードが一定頻度で飛び交うようになったら株を買う、というプログラムの組み方も可能だという。

さらにクオンツを一歩進めた「AIファンド」も市場に投入されつつある。日本経済新聞が伝えたところによると、AIを含めたクオンツを駆使する米大手ヘッジファンドのツーシグマが先月、日本の投資マネーを狙って東京に進出してきた。

AIファンドは、ファクターをその都度書き換えなくても、人工知能が自動学習によって刻々と変わる市場情報や膨大な過去データを読み込み、状況に応じた最適な投資判断を下して高速トレードをしてくれる。

IoTやAIがもてはやされる今のフィンテック(金融・技術)時代、「マシーン投資」への関心は高い。ツーシグマの運用資金は6兆円近くに膨れ上がり、運用実績も年間二桁の投資リターンと、すこぶる好調らしい。

近年はコンピューターのパターン認識能力が飛躍的に向上し、チェスだけでなく囲碁でさえも人間の読みや勘が勝てなくなっている。投資の世界でも、顧客マネーがどんどんホットなマシーン投資にシフトしていくなかで、従来型のファンドマネジャーは、さながら刀を振り上げて銃口に立ち向かう「ラスト・サムライ」のように時代遅れなものに見えてしまう。

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