なぜ「おじさん」は友だちを作れないのか

「コミュニティ」について真剣に考えた
現代ビジネス編集部 プロフィール

「友だち」とはどういう存在か

小野: 先生の定義では、「友だち」イコール掛け値なしに助け合える関係、ということで合ってますか?

安冨: どちらかが困ったら、命がけで助ける、っていうことだよね。

小野: 本当の友だちをつくるにはどうしたらいいんですか?

安冨: それは知ってるでしょ。人間は友だちを作る動物だ。旅をするんです。あなたみたいに。巡礼でいいんじゃない。

小野: マヒコくんの銭湯での居候暮らしは、まさに巡礼です。

安冨: 遍歴。友だちは待っていてもできないから。歩いて探しに行かなきゃいけない。どこに行けばいいというわけではないんだけど、どこかにいる。

小野: 遍歴。友だちをつくるのを目的にしちゃいけないってことですよね。

安冨: ああー、そうだね。目的もなくさすらう。

小野: 遍歴……旅……うーん。なんだかちょうどいい単語が見つからない。

 

安冨: 近代用の言語にはそういう言葉はない。

例えば私が子どもの頃に大好きだった「新八犬伝」という、NHKの人形劇があって。犬塚信乃とか犬田小文吾とかいった犬の入った名を持つ剣士が集まって冒険する話。全員が不思議な球を持っていて、その玉に「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」ってそれぞれ1文字ずつ書いてあるわけ。

で、彼らはお互い相手が八犬士だと知らずに出会って、知らずに戦ったり殺しあおうとしたりするうちに、やがて相手が同じ玉を持った兄弟なんだと知って、八人が集まっていくという話。作ったのは石山透という脚本家なんだけど、彼が「南総里見八犬伝」から取り出した思想が友情だったんだね。

小野: へぇー。

安冨: その中の、坂本九が歌っていた「夕焼けの空」というテーマソングがあって。その中に「ひとりぼっちじゃないんだ、まだ知らないんだけなんだ」という歌詞がある。

その、まだ見ぬ友だちを探しに行かなきゃいけない。どこいったらいいかわかんないけど、旅に出ないと見つからない。動かないといけない。

すごく大事なのは、たまたま何か起きたときに、そのたまたまに飛びつかなきゃいけない。システムが配置してくる同級生とか会社の同僚とかは基本的にたまたまではない。

そうじゃなくて旅先でたまたま出会ったとか、たまたまネットで知り合ったとか、そういう偶然によって出来上がるものだからさ。

これは!と思ったらちゃんとそこにしがみつくというか。そういう人を増やしていくことが、唯一、自分の周囲に小さな社会を作る、ということ。

〔PHOTO〕iStock

小野: コミュニティとイコールじゃないのが難しい。

安冨: 難しいことではないよ。自分が友だちをつくるだけ。友だち同士が友だちになる必要もまったくない。

「正しさ」の外側に出ないと友だちはできない

小野: 友だちと少しずれるんだけど、二村ヒトシさんと宮台真司さんの対談の中で、「いちばんエロいセックスをするには法的な規範(社会)の外に出ることだ」と言っていたんです(https://p-dress.jp/articles/5886)。

法律というシステムの外に出ないとそういう関係性は築けない、と。それは性愛だけでなく、人間関係の全部にあてはまるなと思います。ルールとか、「正しさ」の外側に出ないと、友だち関係は築けない。

安冨: システムは人間の関係性を、契約とか法律とか、そういうものにすり替えていく。人々は自分の友だちとかはどうでもよくて、契約とか法律とかそっちのが重要だと、そういうふうに誘導することでシステムは人間資源を奪い取ることができるわけ。

友だち関係をないがしろにして契約関係とか雇用関係とかそういうものに全力をあげる人間は大歓迎。会社をないがしろにして友だちを優先するような人間は即クビ。

小野: それで思い出したんですが、私が以前住んでいた「本郷よるヒルズ」というシェアハウスで、住人の青木大和くんという大学生の男の子がSNSで大炎上してしまったんですよ。彼女の顔写真まで流出したり、毎日マスコミがうちに押し寄せて……。

ネット上では大騒ぎで「韓国に逃亡した」とか「創価学会だ」とかデマばっかりが流れて。けど、シェアハウスの住人たちは至極平常心だったんです。

もちろん少しは心配しましたが「あーあ、大和やっちゃったなぁ」「けどあいつなら、まあ、大丈夫だろう」って感じで、全然態度が変わらなかったんです。それは当然、彼に対する蓄積された信頼があるから。

そのことを、最近よく考える。「もし、今、自分が何かを誤ってSNSで大炎上したとして、一体何人が、態度を変えずに付き合い続けてくれるかな」って。

安冨: さっきの歌(「夕焼けの空」)にはこういう歌詞がある。

夕焼けの空は 君たちの血の色
愛し合い助け合う 誓いの赤

そういう血の色で結ばれた関係と比べたら、SNSの一時の騒ぎとか、ほんとうにどうでもいいよね。会社や取引先の人間関係やそういうものと同じくらい、どうでもいい。