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選挙

いま明かされる、戦中日本軍の「あまりに愚かな」逸話の数々

【特別対談】戦争と歴史を辿る

2017年11月に同時刊行した講談社現代新書、井上寿一『戦争調査会 幻の政府文書を読み解く』と鴻上尚史『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』。

多くの人に知られていない文書に光をあてた前著は7刷、後著は10刷と版を重ねています。10万部を突破した『不死身の特攻兵』では、「必ず死んでこい!」と命令されながら、9回生還した特攻兵に迫り、合理性を欠いた日本軍について考察しました。

敗戦へと突き進んでしまったのは何故だったのか。今回は、著者お二人が、太平洋戦争当時の日本のあり方や、歴史を語り継ぐ意義について対談しました。

 

日本人自らの手で戦争を検証する

鴻上: 井上先生が今回の著作のテーマに選んだ「戦争調査会」は、終戦間もない頃、幣原喜重郎首相の強い意向によって、日本が敗戦に至った理由を調査するために設置された機関なんですね。

井上: ええ、東京裁判が連合国による戦争責任追及の場であったとするならば、戦争調査会は日本人自らの手で、開戦から敗戦に至る経緯を調査・研究する場でした。ところが、GHQにより1年弱で廃止されてしまい、プロジェクトは未完のまま終わってしまいました。

鴻上: 井上先生は長らく眠っていた当時の資料に光を当て、内容を詳細に分析して『戦争調査会』にまとめられた。ここでは、なぜ日本があの戦争に向かっていったのかが実証的に著されていて面白いのですが、その反面、読んでいくと腹が立ってくるんですね。というのも、戦争を回避するチャンスは幾度となくあったのに結局軍部は勝てる見込みのない戦争に突っ込んでいった。なぜこんな愚かな決断ばかりしたのかと……。

井上: 社会の構造的な変動によって、戦争が避けがたくなっていきました。戦争への道には実は分岐点がいくつもあって、そこで違う決断をしていれば回避できる可能性はあった。一つひとつの決断の積み重ねとして戦争になっていくのです。

一つの判断は、わずかな結果の差異しか生みませんが、それがいくつも重なることで最終的な結果が大きく変わってしまったのですね。

鴻上: 単純に「東条英機が悪かった」というように、分かりやすい個人に責任を帰すということではないということですね。

井上: ええ。例えば東条一人に責任があるというなら話は簡単ですが、その背景には東条を支持した国民の存在もありました。なにしろ東条自身は、必ずしも開戦に積極的ではなかったのですから。

戦争が避けられない状況になっても、陸軍出身の東条は責任を海軍に押し付けようとしていました。「陸軍はやりたくてやっているわけじゃない。海軍はこういうときのために軍拡していたんだろう? 開戦したなら頑張れよ」という流れに持っていった。

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海軍も、合理的に判断すれば戦争をしたら負けるということは分かっている。しかし10年くらい軍拡を続けているのに、いざというときに「戦えません」とは言えない。彼らは自分たちの組織を守るために「じゃあ、やります」と言わざるを得なかったのですね。

鴻上: 陸軍と海軍のこの救いようのないセクショナリズムって何なんですかね。

井上: 本当に。一方の東条は、開戦を決断せず、ぐずぐずしているときには「なんで開戦しないんだ」と世論から叩かれていたのですが、いざ開戦してみたら、国民から激励の電話や電報がジャンジャン入ってくる。そうしたら彼も気持ちよくなりますよね。戦況が有利なところで講和に持ち込むのが常道だったけれど、その判断もできなくなっていったのです。

歴史を再現する熱意

鴻上: 本の中で井上先生が「主観的でない歴史は存在しない」と書かれていて興味深かったんですが、世の中には「客観的な歴史が存在する」と考える人もいますよね。

井上: 歴史って教科書に書いてあることを暗記すればいいというのではないですよね。いま生きている自分が直面している問題を考えたい、解決したいというとき、過去に遡って何かしらつながりを求めたくなる。そこに歴史を学ぶ意味があると思うのです。

もちろん過去に遡れば、そこに事実というものは無数にありますが、それをすべて再現することは不可能だし、する必要もないと思うのです。それよりも、いま生きている自分が「過去のどういうところから学びたいのか」という意識をもって過去に遡っていくことが大切だと思いますね。

鴻上: でもどこに軸足を置くかによって歴史の描き方、解釈は変わってきますよね? 軸足を置くポイントはどう選んでいらっしゃるんですか?

井上: 鴻上さんは、『不死身の特攻兵』で描いた、特攻に9回出撃して9回生還した佐々木友次さんに感情移入ができたと思うのですけど、私も誰かしらには感情移入しないと、なかなかその人物を中心にして歴史を再現しようという気にはなりません。

鴻上: なるほど。

井上: 『戦争調査会』を書くにあたって、広く知られた存在ではありませんが、東京帝大教授の渡辺銕蔵や陸軍の岡田菊三郎という魅力的な人物を再発見しました。大学教授であり財界人であり政治家でもあった渡辺は、戦前から軍部や右翼を批判し、戦時中は戦局批判で投獄されている。