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「私のせいで寝たきりに…」10年前に父と離婚した母が抱く罪悪感

現役証券マン「家族をさがす旅」【5】

緊急手術をすることになった70代の父。駆けつけた「ぼく」に、母の口から明かされたのは、思いもよらない父の過去と、腹違いの兄の存在だったーー。

現役証券マンにして作家の町田哲也氏が、実体験をもとにつづるノンフィクション・ノベル『家族をさがす旅』。

第1回「危篤の父が証券マンのぼくに隠していた『もうひとつの家族と人生』」

手術を終え、リハビリを始めた父。母は10年前に父と離婚したのだが、父が倒れてからつきっきりで看病にあたっている。「早く家に帰らせてあげたい…」息子である「ぼく」は、母の微妙な心境の変化を感じ取っていた。

看病で疲れきって…

数日後、母は今後の方針を主治医の八木医師から聞かされた。

「まずは体力をつけることです。そのためには、点滴の量を増やして栄養状態を改善します。同時にリハビリを開始したいと思います」

「リハビリですか?」

「ええ。いつまでも寝ていては、体力が衰えるだけですから。頑張れば車椅子にも乗れるようになります」

母は話を聞きながら、どうしても今の状態から、父が自分の意志で動けるようになる姿がイメージできなかった。

「そんなことが可能なのでしょうか?」

「大丈夫ですよ。町田さんは、年齢の割に身体が若い。今回がはじめての入院じゃないですか。大事なのは、回復することへの希望を失わないことです。まずは今週いっぱいで、一般病棟に移れるようにしましょう」

そう語る八木医師の表情が力強かった。

母が当初気にしていた腎臓は、今のところ大きな問題はないようだった。造影剤の影響で透析になる可能性があるといわれていたが、尿はしっかり出ているという。ただ腎臓機能が弱いので、身体のあちこちに浮腫がある。胸に水がたまるので、針を刺して水を抜いていた。

 

医師の診断で気になるのは、血便が手術後も止まらないことだった。出血性のショック症状で意識が遠くなることがあり、出血の原因を究明する必要があった。輸血しても内蔵のなかで出血しているのでは、いつまでたっても血圧が安定しない。

これだけ医学が発達して、最新の設備を駆使してもわからないことなどあるのだろうか。大腸には傷がなかったので、小腸のどこかにあるに違いないという。そんなアナログともいえる診断の手順が不思議でならなかった。

「どこから血が出てるかわからないのは、手術前と変わってないんだね」

「小腸って長いんでしょ。どうしてもレントゲンだけじゃ、完全にわからないみたいなのよ」

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看病が一段落すると、母とぼくはメディカルセンターの正面入り口の脇にあるカフェテリアで休むことがあった。

「古い血が流れ出てるっていう可能性もあるんでしょ?」

「もちろんそうだけど、最悪なのは、別のところから出血してる場合ね。今の出血量からすると、その可能性もあるんだって」

「なるほどね」

ぼくは紙コップに入れたコーヒーを一口飲むと、疲れ切った母の表情を見た。

「お母さんの体調は大丈夫なの?」

「私は問題ないわよ」

「けっこう疲れてるんじゃない? 今でも歩いてるの」

「そこまでの時間はないわね。時間があってもきついかな」

母がよくウォーキングしていることは、昔の会話から記憶に残っていた。

「お金の問題は?」

「今のところ年金があるから何とかなってる。県民共済からもいくらか支払われるしね。高齢者の医療費は一定だから、それに食事代とおむつ代を入れてトントンっていうところかしらね」

「足りなくなったらいってよ」

「ありがとう」

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