新しい技術は人間を幸せにするか――。例えばFacebookやTwitter、Instagram、LINEなどのSNSはコミュニケーションを便利にしているが、果たして本当に「人間を幸せ」にしているだろうか。

そこで重要になってくるのが「ウェルビーイング」という概念だ。これは、「健康な精神衛生状態」を指し示す言葉だ。SNSなどの情報テクノロジーは人間のウェルビーイングにどう影響を与えているのか。メディアやテクノロジーに詳しいドミニク・チェン氏が解説する。

技術は人を不幸にするのか

テクノロジーは人を幸せにするか、と聞かれたら、あなたはどう答えるだろうか。多くの人は答えに窮するかもしれない、一筋縄ではいかない設問だ。

情報技術を用いた新しいコミュニケーションや創作のかたちを研究開発してきた私としては、ITの発達によって受けてきた恩恵は計り知れないものがある。だから、人工知能技術を指して、人類に対する脅威と捉えるような論調は不毛だと考える。

しかし、それと同時に、テクノロジーの際限のない発展を盲目的に礼賛する向きを見ても、どうにも気持ちが落ち着かない。そもそも、人間とテクノロジーを切り離して、技術が人を幸せにするかしないかという設問が間違っているのではないだろうか。

だから、より良い問いとしては、人が幸せになるためのテクノロジーをどのように作るか、ということだと考える。

人間の心が良い状態にあるかどうかを探るために、心理学的ウェルビーイング(psychological ウェルビーイング)の概念が広く用いられている。

ウェルビーイングという用語は、世界保健機関(WHO)の憲章でも基本人権の項目の一つとして位置づけられ、国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)の一つとしても設定されているが、主に心理学の分野で発達してきた「健康な精神衛生状態」を構成する要素について研究するための概念である。

最近は、特に2000年代後半からスマートフォンが爆発的に全世界で普及して以降、SNSなどで用いられる情報テクノロジーが、ユーザーのウェルビーイングにどう影響するかという研究や議論が活発になっている。

一番わかりやすい事例が、先月(2018年1月)フェイスブック社が行ったタイムライン・アルゴリズムの改定だろう。CEOのマーク・ザッカーバーグがフェイスブックのタイムラインでユーザーに情報を提示する順番を計算するアルゴリズムの変更を発表した。

これまでのフェイスブックの「ニュースフィード」タイムラインでは、いわゆるバズ動画やニュース記事のリンクが溢れ、個人的なつながりが後退してしまっていたが、新しいアルゴリズムはそうした「多くの人が興味を持つであろう」情報の重みを下げ、親しい人間のささいな出来事に関する投稿を優先する。

結果的に、ユーザーのフェイスブックでの滞在時間は減少し、収益も下がるだろうが、それでもユーザーがサービス上で「良い時間を過ごせる」(time well spent)ように努める、という内容だ。

この変更については、一般ユーザーからは歓迎の声が上がったが、広告主や企業ユーザーからは当然、批判が起こった。しかし、これまで広告収益の最大化を目指してきた世界最大のSNSネットワークが、一般ユーザーのウェルビーイングを優先する姿勢を見せたことは画期的な出来事だと言える。

この変更の日本版フェイスブックでのロールアウト(反映)は現時点では確認できていないが、少なくとも職業柄インターネットに溢れるバズコンテンツに疲れている身としては、同サービスへのロイヤリティを上げるには十分な効果があるように思う。