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チベット探索中、中国人官僚の高級車に乗せられた結果…

中国一の「危険地帯」かもしれない

ジャーナリストでも観光客でもない、「中国奥地で活動する70歳の自然写真家」という視点から、「中国の地方」の実態を写真と文章で切り取る青山潤三氏の連続レポート。微妙な情勢下にあるチベット周辺を歩いていた時、思いがけぬ事件に遭遇して…

チベットとはどんな場所か

中国のチベット自治区で、春節早々不穏なニュースが続いています。州都ラサの寺院で火災が起きたというニュースに続いて、チベットへの入り口に位置する四川省雅江県悪古郷と八角楼郷で大規模な山火事が発生、5人が当局に拘束された、とも報じられました。

四川では1月以降、山火事が相次いでいる(Photo by gettyimages)

中国のネットではすでに情報統制が始まっており、SNSへの関連の書き込みが削除されています。これらの事件は、政治的なつながりを持っているかもしれません。

偶然ではありますが、標高4500m超の高原地帯が大部分を占める四川省雅江県は、筆者がよく通うフィールドの一つです。今回は趣向を変えて、この一帯がどのような場所なのか、住民たちが何を思って暮らしているかをレポートしたいと思います。

 

巨大都市圏と秘境と

まず地理的な解説から入りましょう。四川省は、東半部と西半部に大きく分けることができます。

東半分は、標高200-500mの四川盆地を中心とした漢民族居住圏。四川盆地には、現在は国家直轄都市となった人口約3500万人の重慶市、四川省の省都で人口約1500万人の成都市と有数の巨大都市があり、中国国内でも人口密度がきわめて高い地域です。総人口は1億人を超えています。

一方で西半分(阿壩蔵族羌族自治州・甘孜蔵族自治州)は、広義のヒマラヤ山脈の東への延長上に位置する標高7556mのミニャ・コンカや、標高6250mの四姑娘山などを擁し、その大半はチベット高原の東半分に相当します。面積では四川省の漢民族居住圏を上回りますが、総人口は約200万人です。

奥の尖った山がミニャ・コンカ

この一帯は「東チベット」とも呼び習わされるように、もともとはチベット人の自治区でしたが、現在では四川省西部(康定市など)と雲南省北部(香格里拉市など)に分割編入されています。

周辺は、ミャンマーに至るイラワジ河水系とサルウィン河水系、ミャンマー・タイ・ラオス・カンボジア・ベトナムを貫くメコン河水系、上海に河口をもつ長江水系など、世界有数の大河の源流でもあります。また、温暖な四川盆地と極寒のチベット高原を分かつ移行帯は、亜熱帯から亜寒帯の豊富な植生を持つ「グリーンベルト」で、以前紹介した野生のジャイアントパンダの棲息地でもあります。

この一帯は、本来はまさに「秘境」というべき地域だったのですが、10数年前頃から、多くの中国人(漢人)たちの注目を浴びるようになりました。国道318号線を辿って自転車で成都からラサまでを走破しようとする人々が詰めかけ、一大サイクリングブームが起きたのです。

筆者は同地でもっぱら路線バス(観光で利用する人はほとんどいない)を利用していますが、標高差2000mはあろうかという急坂を、隊列をなして喘ぎあえぎ登っていくサイクリストたちに、何度も遭遇します。

砂まみれで走るサイクリストたち。これから峠まで2000mの高低差を超える

車での走破を目指す人(ちなみに彼らはチベット自治区に入った後、さらに北方のウイグル自治区や青海省や甘粛省も巡ることが多いようです。マイカーの後方の窓にこの地域の巡回道路地図が張り付けられているのを、中国内陸部に来たことのある人なら、目にしているかもしれません)、さらにもちろん極めて少数ですが、徒歩での踏破を試みる猛者もいます。