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73歳の久米宏の心に、芥川賞作『おらおらでひとりいぐも』が沁みた理由

老い・孤独・仕事…50万部の共感とは

「僕、『おらおらでひとりいぐも』が芥川賞にノミネートされたとき、かなりびっくりしたんです。ノミネートされたことに驚いたというより、僕の頭の中では「直木賞」というイメージだったからです」

そう語るのは、『ニュースステーション』『ザ・ベストテン』など、メディア史に残る伝説のテレビ番組を生み出してきた久米宏さん。

2017年のベストセラーといえば、8月に刊行し半年足らずで100万部を超えるベストセラーとなった『漫画 君たちはどう生きるか』。今、同作品に並び、発売よりわずか2ヵ月強で50万部を超える快進撃を見せているのが、この若竹千佐子さんの『おらおらでひとりいぐも』だ。この作品は2017年秋、63歳の若竹さんが第54回文藝賞を受賞したデビュー作。1月17日には見事芥川賞受賞となった。

芥川賞受賞作といえど、50万部を超えるベストセラーになるのはそう多いことではない。平成になって単行本刊行部数が50万部を超えた受賞作は、金原ひとみ『蛇にピアス』(53万部)、綿矢りさ『蹴りたい背中』(127万部)、村田沙耶香『コンビニ人間』(56万部)、そして又吉直樹『火花』(253万部)の4作のみ。さらに受賞作がデビュー作のものとしては、1976年村上龍の『限りなく透明に近いブルー』(131万部)以来の快挙である。

 

一体なぜこれほどまでにヒットしているのか。同作が文藝賞を受賞後、帯に推薦文を出し、自らのラジオ番組『久米宏 ラジオなんですけど』でも若竹さんをゲストに呼ぶなどして応援し続けている久米宏さんが、『おらおらでひとりいぐも』の魅力について語ってくれた。

なぜ直木賞だと思ったか

純文学の新人賞である文藝賞を受賞しているわけですから、この作品が芥川賞にノミネートされるのは自然なことですよね。それでも僕が「直木賞にノミネートされるのではないか」と思ったのは、超娯楽作品、ユーモア小説として読んだからです。

そもそも、僕が推薦文を求られるということ自体、作品にエンターテインメント要素が強いからのはず。主人公の桃子さんが74歳、僕が73歳で年齢が近いからという理由もあるのでしょうけれど、とにかくユーモアにあふれていて、大笑いしながら読みました。

直木賞と思っていたのに芥川賞を取れると思ったというのはちょっと変なんですが、芥川賞にノミネートされたと聞いた瞬間に、「取るな」と思いました。読んだ瞬間に「突き抜けている本」だということは分かりましたから。

『おらおらでひとりいぐも』主人公の桃子さんは74歳。24歳で故郷の東北から上京、結婚して専業主婦として二人の子を育て、今では40年住んでいる東京近郊の家に暮らしている。31年連れ添った夫・周造は15年前突然亡くなった。子どもたち二人は別のところに暮らしており、一緒に暮らしていた老犬も昨年の秋に身罷った。

今では、ともすると一日誰とも話さず、どこにも行かずに過ぎる。たくさんある部屋の中で、いつもいるダイニングと寝室のふた部屋しか使っていない。ネズミですら、「嫌なもの」ではなく、「音を感じられるもの」と貴重に感じる状況。

「老いとともに生きる」「自分を生きる」とはどういうことかを、桃子さんを通じて感じることができる小説なのだ。冒頭から始まる東北弁の桃子さんの心の声と、桃子さんの状況を説明する地の文と二つの視点で物語は進んでいく。

桃子さんの心の声で、冒頭から東北弁がたくさん出てくるでしょう。それがすごくいいですよね。もともと中高と修学旅行が東北で、東北弁に親近感を感じていることもあるかもしれませんが、心の声として入ってくる。

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