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防衛・安全保障

政府・自衛隊で「THAADミサイル日本配備論」が急浮上した理由

崩れる東アジアの軍事バランス
平昌五輪で融和ムードを演出した北朝鮮。だが、核・ミサイル問題には進展がないままだ。日本でもミサイル防衛能力の増強が計画される中、いま政府・自衛隊の中枢では「THAAD」(サード)の日本配備論が急浮上しているという。その内情を、軍事問題に詳しいジャーナリストの伊藤明弘氏が取材した。

鳴り物入りの「イージスアショア」用ミサイルが…

安倍晋三首相は、2月14日の衆院予算委員会で、いわゆる「敵基地攻撃能力」もあると指摘されている長距離巡航ミサイルについて、

「専守防衛の下で、自衛隊員の安全を確保しつつ、相手の脅威の圏外から対応できるミサイルは必要不可欠だ」

と説明し、ミサイル防衛にますます力を入れていく方針をあらためて強調している。

だが、その一方で1月31日、ハワイで行われたSM-3ブロック2Aミサイルの実験が失敗に終わってしまった。ニュースでご覧になった方も多いだろうが、短信であまり印象に残らなかったのではないか。

 

「SM-3ブロック2A」とは、日米共同開発された最新の迎撃ミサイルシステムなのだが、これで失敗は2回連続となってしまった。

このSM-3ブロック2Aは、現行の海上自衛隊イージス護衛艦『こんごう』型のSM-3ブロック1Aや、『あたご』型のSM-3ブロック1Bと比べて性能が大幅に上がり、ミサイルの直径が大きくなって弾頭も大型化されたものだ。

その最新型のSM-3ブロック2Aが、どこで運用されることを前提に開発が進められているかというと、実は最近、何かと話題の「陸上型イージス」こと、イージスアショアなのである。

その要となる迎撃ミサイルの実験が失敗続きとなれば、次期防衛ミサイル計画に大きな支障をきたすことは想像にかたくない。要するに、北朝鮮のミサイルに対する最新防衛システムの開発そのものが遅れてしまう可能性があるのだ。

これには、防衛省、防衛装備庁でも、強い危機感をおぼえていると、ある防衛省幹部は明かしてくれた。

イージスアショアSM-3ブロック2Aは、日本2ヵ所に配備すれば、北朝鮮のミサイルから日本全土を防御範囲に置ける能力があると言われてきた。だが、その開発に暗雲が立ち込めたとなれば、他の方法も検討せねばならなくなる。

そこで囁かれているのが、なんと、

「それなら、とりあえずTHAAD(サード:終末高高度防衛)ミサイルを採用しておきたい」

という「THAAD日本導入論」であるのだという。

THAAD、SM-3…ミサイルの違いは「高度」で見よ

THAAD(Terminal High Altitude Area Defense missile)といえば、韓国への配備が進められ、中国が激しく反発して中韓関係が一気に冷え込んだことで記憶に新しい。

THAADミサイルはアメリカ陸軍が開発した迎撃ミサイルだ。2008年5月、アメリカ・テキサス州フォートブリス基地にて、最初のTHAAD部隊が編成された。

[写真]1999年6月、THAADミサイルが目標撃破に初成功したテストの際に撮影された打ち上げの様子(Photo by GettyImages)1999年6月、THAADミサイルが目標撃破に初成功したテストの際に撮影された打ち上げの様子(Photo by GettyImages)

「サードだのSM-3だの、いったいどうちがうんだ」と思われるかもしれないが、迎撃ミサイルにも色々と役割がある。

端的に言うと、一番の違いは、敵ミサイルを向かえ撃てる「最大高度」だ。

現行のイージスシステムで用いられるSM-3ブロック1Aでは、高度600km。陸上自衛隊が市ヶ谷の防衛省などで展開することもある、ペトリオットPAC-3(地対空ミサイル)は高度30kmだ。これに対して、SM-3ブロック2Aは高度1000kmとされる。

そして、問題のTHAADミサイルは、高度200km(成層圏外)である。

高度が高ければ高いほど、迎撃において地上へのリスクは少なくなる。そのため、いかに高い高度で敵ミサイルを迎え撃てるかが、防衛省の課題だったわけだ。

だが、高高度での迎撃を前提としたSM-3ブロック2Aが失敗続きとあっては、200kmまでのTHAADでもよいのではないか、という声が出るのは必然的だろう。

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