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同盟より同胞を優先?金正恩妹の「微笑外交」を喜ぶ文大統領の悲劇

金与正と文在寅「蜜月の3日間」舞台裏
近藤 大介 プロフィール
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オリンピックを最大限に利用して

開幕式の一連行事の「金メダリスト」が金与正副部長なら、「銀メダリスト」は文在寅大統領である。文在寅大統領の満面の笑みは、大統領に就任して9ヵ月で、これまで見たことのないものだった。

文大統領は心から、北朝鮮と仲良くしたくてたまらないのである。文大統領にとって、北朝鮮は憎むべき「敵国」ではなく、愛すべき「同胞」なのである。このような韓国大統領は、金大中、盧武鉉に続いて3人目である。

 

歓迎レセプションに関する「青瓦台」(韓国大統領府)の提供資料には、こう書かれている。

〈 今回のレセプションに提供された晩餐は、先祖たちの悠久の智恵が結集した「韓国式正餐」です。江原道の清らかな特産物を活用し、メニューの一つひとつに、政治・宗教・人種・大陸・理念などを超越した、世界平和に貢献するオリンピック精神をテーマにした「一皿」の姿として、提供しました 〉

日本が密かに恐れていた「独島エビ」は、今回は饗されなかったようだ。とにかくオリンピックを利用して「平和」と「南北一体」を前面に押し出すのが、文在寅流なのだ。

〔PHOTO〕gettyimages

レセプションで文在寅大統領は、主催者として、一世一代のスピーチを行った。全文はかなり長いので、以下に要旨のみ訳出する。

「世界の人々と共に行う平和の祭典が、いよいよ始まります。江原道の冬は大変寒いですが、私が尊敬する韓国の思想家・申栄福先生は、冬に隣の人の体温で寒さに打ち克つことを、愛情深く説き起こし、『原始的友情』と呼びました。

30年前のソウルオリンピックの時、ヨット競技は私の故郷・釜山で行われました。競技中に突然、強風が吹き、シンガポールの選手が海に放り出されました。その時、2位につけていたカナダのローレンス・ルミュー選手は、すぐさま自分の競技を中断して救出に乗り出し、22位に終わりました。彼の首にメダルはかかりませんでしたが、世界は彼に、スポーツマンシップという偉大なメダルを授与したのです。韓国も今、平昌の雪と氷の上で、そのような協調の社会を夢見ているのです。

本日この席には、世界各国のリーダーや指導者たちが来られています。私はこの瞬間、葛藤と対立が根深く残る地球村で、このようなスポーツ大会を開くことは、どれほど意義深く、幸福なことかと深く実感しています。もしオリンピックという庭がなかったならば、地球村の他のどこに、このように幸福感を共にできる場所があるでしょうか?

われわれはこのような席を共有していますが、世界各国は互いに解決しなければならない難問があります。韓国もいくつかの国との間に、解決すべき難しい宿題があります。平昌冬季オリンピックがなかったならば、席を共にするのが困難だった方々も、今日は来ております。

しかし、何より重要なことは、われわれが共同作業をしているという事実であります。一緒に選手たちを応援し、われわれの未来を話すことができるという事実です。その事実自体が、世界の平和に向かって一歩を進める貴重な出発点となるのです。

南北は、1991年の世界卓球選手権で、単一チームを構想し、女子団体戦で優勝しました。2.7gの小球が、平和の種となったのです。この平昌で、オリンピックの歴史上初めて、南北単一チーム、女子アイスホッケーチームが初戦を準備しています。2.7gの卓球ボールが、170gものポックに変わったのです。

南北は明日、関東ホッケーセンターで一つになります。南と北の選手たちが勝利を目指して、互いの熱い姿が、世界の人々の胸に、平和の大きな響きとなって記憶されるでしょう。選手たちは今や、ロウソクを明るく翳す友人になりました。ストックを合わせて「ファイト」と叫ぶ選手たちの胸に、休戦ラインはありません。

皆さんをその特別な氷上の競技場に招待したいです。南北の女子アイスホッケー選手たちは、小さな雪の塊を手に握りました。ある詩人は、『雪だるまは一握りの雪から始まる』と謳いました。現在、二つの手の中にある小さな雪の塊を、われわれは共に、用心深く転がしていかねばなりません。われわれが共に心を合わせれば、雪塊は少しずつ大きくなって、平和の雪だるまが完成するでしょう。

数時間後には、美しい開幕式と共に、友情と平和が始まります。皆さん全員が共感し、美しい競争を見ながら、韓半島(朝鮮半島)の平和の主人公になるのです。

私は、われわれの未来世代が今日の日を記憶し、『平和が始まった冬季オリンピック』だと特記されることを願います。

平和の韓半島に、素敵に報いていきましょう」

青瓦台の「大本営発表」

私は、この長時間の文大統領の挨拶を、安倍晋三首相はどう聞いていたのだろうと思った。「何が雪だるまだ」と聞き流していたかもしれない。レセプション参加者たちの記念撮影にも、安倍首相は加わらなかった。

ちなみにマイク・ペンス米副大統領も、「アメリカ選手を激励する」との理由で、レセプションの頭5分しか参席しなかった。もしかしたら、この文大統領のスピーチ草稿を事前に見て、退席を決意したのかもしれない。

文在寅大統領にしてみれば、このメッセージは、誰よりも二人のVIP、すなわち金与正副部長(及びそのバックに控える金正恩委員長)と、ペンス副大統領に聞かせたかったはずだ。ところが両人とも参席していなかった。

ペンス副大統領と金与正副委員長、金永南委員長は今回、少なくとも公の場では接触していない。おそらく密かに会っていたということもなかろう。

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