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世界を震撼させた株価下落の「真犯人」は、やはりあの人だった

市場は「リーダー」の資質を疑っている
町田 徹 プロフィール
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筆者は市場の不安を煽る気は毛頭ない。これまでのところ問題は株式などの市場に限定されており、実態経済のファンダメンタルズは変わっていないという見方を支持している。

実際、世界経済の機関車になっている米経済は順調だし、日本企業の業績も上振れが相次いでいる。とはいえ、これほどの急落やたび重なる乱高下は、実体経済に影響しかねないので、注意深く見守る必要があるだろう。

 

「伏線」は昨年末に敷かれていた

さて、本題に入ろう。注目したいのは、前節で触れた米金利の上昇ペースの加速懸念が高まる直接のきっかけとされている「雇用統計」が、これほど深刻に受け止められた背景だ。

日本では細かいニュアンスがあまり報じられていないが、大手の米系証券会社幹部によると、米国市場では、この統計を受けて、それまで「今年3回、来年1回」と予測されていた利上げが、「やはり、今年だけで4回になりかねない。幅も大きくなるだろう」と動揺が広がったという。

ポイントは、この「やはり」という言葉だ。この言葉は、これまで常識だったはずの米金利上昇ペースの加速懸念がサプライズとして受け止められた裏には、「伏線」が存在していたことを意味している。

実はこの伏線は、昨年のクリスマス直前に敷かれていた。米議会上下両院が12月20日に可決し、トランプ米大統領がその2日後に署名して成立した巨額の減税法こそが、その伏線だ。この減税法は、減税規模が10年間で1.5兆ドルという破格のもので、レーガン政権時代の1986年以来、約30年ぶりの抜本的な税制改革とされている。

トランプ米大統領「大型公約」の大減税を実現したものの…… photo by gettyimages

今年1月から、連邦法人税率は35%から21%に14ポイントも引き下げられ、新税率は地方と合わせて約28%と、日本やドイツを下回る水準になった。米企業の米国内への回帰を促す効果や、海外企業を米国に誘致する効果が大きいとされる。

また、個人所得税は最高税率を39.6%から37%に引き下げる内容だ。トランプ政権が主張する「経済成長率を3%台に高める」というほどの効果があるかどうかは疑問だが、かなりの景気浮揚効果を持つことは間違いない。

実際、この減税法案の成立直前から同法案の成立を歓迎して、米企業は大盤ぶるまいを始めた。AT&Tとコムキャストの通信大手2社が全従業員に1000ドル(約10万8000円)のボーナス支給を約束したほか、ウェルズ・ファーゴなど二つの銀行が賃上げを発表している。

トランプ大統領の「大型公約」がアダに

問題は、当初、この減税による短期的な景気浮揚効果がマーケットに織り込まれていなかったことである。クリスマス・シーズンでウォール街関係者がほとんど休暇を取っていたことが原因だ。

そして、遅れて1月中下旬にバカンスから戻った関係者たちが、景気浮揚効果の大きさとそれに伴うインフレ懸念の台頭をしっかりと意識し始めた時期に、先述の雇用統計が発表され、それまでより衝撃の大きな金利急騰懸念が一気に広がったというのである。

もう一つ、トランプ減税が厄介なのは、減税の財源を景気浮揚に伴う税の自然増に求めており、本当に必要な財源を確保できる保証がないことだ。米議会も、財政赤字が今後10年でさらに1兆ドル以上も増えるとの試算を出している。つまり、今回の減税には、国債の増発とそれに伴う長期金利の上昇懸念がつきまとうわけだ。それが、雇用統計を受けての金利急騰懸念に拍車をかけた、もう一つのポイントだというのである。

もう、おわかりだろう。先週のニューヨーク株急落の真犯人は、今年秋の中間選挙に向けて支持層を広げるため、大統領選挙時の大型公約を初めて実現しようと躍起になった、トランプ大統領その人だったのだ。

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