画/おおさわゆう
医療・健康・食

「失礼ですが妊娠してますか」医者が患者にこれを聞く時の複雑な心境

覆面ドクターのないしょ話 第3回
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病院の初診外来に行ったとき、保険証を提出したあと、まずは問診票を書かされる。あなたはお気づきだろうか。その一番下に、「あなたは妊娠していますか?」という質問があることを。それは、風邪をひいた場合の内科だろうと、捻挫した場合の整形外科だろうと、花粉症の場合の耳鼻科だろうと、どの診療科にいっても、必ずこの項目は入っている。男性にとっては無関係な質問だが、診察する医者にとってはとても重要な質問らしい。

可能性はゼロじゃないから…

女性患者を見たら妊娠の可能性をまず考えよ

学生時代、多くの先生が授業の度に口を酸っぱくして、この言葉を言っていた。
「子どもは小さな大人ではない」とセットになって、頻繁に言われる。

「生理が来ない」という訴えならば、もちろん妊娠を念頭に置く。その他、たとえば女性の腹痛は注意を要する。頭痛・気分不快や不定愁訴の類であっても、「もしかしたら妊娠しているのではないか?」という疑いは、やはり頭の片隅に入れておいた方がよい。

不定愁訴で来院して、妊娠を疑わず「胃腸炎」などでその女性患者さんを帰したとする。後日、産婦人科を受診して妊娠が判明し、10ヵ月後に「おめでた」ならばまだよい。だが、妊娠を疑わなかったために後で痛い目に遭うことがある。たとえば子宮外妊娠をしていた場合、後で大出血を起こし、瀕死の状態で病院に運ばれることがあるのだ。

photo by istock

中学生、高校生の女子の腹痛であっても妊娠の可能性はゼロではない。だから「セックスの経験の有無」は絶対に聞いておく必要がある。特に産婦人科の実習では担当の教官から、必ず問診時に確認するよう指導されている。

ところが世の中のことも、ましてや女性の肉体のしくみも、さらには女性の心理さえもまだよくわかっていない医学部生が、セックスの経験の有無を問診して、訊いたこちらがショックを受けることも多々ある。

「失礼ですが、セックスの経験はありますか?」と中学生の女子に訊いて、あっさり、「はい」と言われたときには、頭をハンマーで叩かれたかのような衝撃があった。「世の中どうにかなっちまったんじゃないか!?」と思った。

 

別の20代の女性は、この問診に対して、あっさりこう答えた。

最近はアメリカ兵と……釜山(プサン)で

(おいおい、「最近は」ってなに? 終戦直後でもないのに、なぜアメリカ兵って言い方? まあ、それは趣味の問題としても、なぜわざわざ釜山で……ホワーイ?)

この問診は女性の年齢を問わず訊くものであるから、高齢者にも訊かなければならない。おばあちゃんに問診するのは、こちらも恥ずかしい。

肥満と便秘と妊娠が重なっていると、これもまただまされやすい。ある女性が便秘を主訴に来院した。診察室では便秘のことばかり訴えていた。このためにお腹が張るとか、お通じが何日もないなど。私も経験があるが、本格的な便秘になると本当につらい。

この患者さんは肥満もあり、母親でさえ臨月近くまで娘の妊娠には気づかなかった。しかも、この場合は、患者さん自身の男性交遊関係が広く、初めての妊娠ではなかったため、本人が特別なことだと自覚していなかったのである。

「神業」を成し遂げた女性

産婦人科の先生からレアケースとして、次のような話を聞いたことがある。

その女性の患者さんは、「生理が来ない」といって産婦人科を受診した。産婦人科の先生が、いつものように「セックスの経験の有無」を問診すると、「ない」という。何度訊いても、「ない」。だが、産婦人科の先生は疑っている。このあたり、刑事が人を信用しないのと似ている。顔は笑っても、刑事の目は笑わないというが、女性を信じていない産婦人科医の目はどういう目をしているのだろうか? 

超音波検査をしてみると、妊娠していた。そして 再度問診したが、セックスはしていないとその女性は言い張った。

よくよく聞いてみると、彼氏はいて、深い仲だという。キスもしたし、裸で抱き合ったこともあるという。いわゆるBまでは経験している。ところが下着は脱いだことがないというのだ!

「そんなはずはないでしょう? だってあなたは妊娠してるんですよ? 下着を履いたままどうやって妊娠できるの?」

女性はこう言った。

「それはこっちが聞きたいですよ! してないものはしてないんです! 驚いてるのは私なんですよ!」

こうまで言われると主治医も患者さんの言葉を信じるしかない。

主治医が出した結論はこうだ。この患者さんは彼と深い仲で、裸で抱き合ったが、セックスには至らなかった。だが極めてセックスに近い状態で、彼が彼女の下着の上に射精した。精子が下着の網目をくぐり抜け、女性の体内に入り妊娠した。つまり彼女は「処女受胎」したということになる。産婦人科の先生は感慨深げに語った。

あのケースはいまだに理解できんのですよ。それにしても『処女受胎』だなんて……。『神業(かみわざ)』のようなことをする若者がいるものですなぁ

聖母マリアへの受胎告知 photo by istock
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