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障害者とともに一流のスイーツを作る「久遠チョコレート」の挑戦

「障害があるから低賃金」を乗り越えて

バレンタインデーを控え、百貨店やオンラインでチョコレートを目にする機会が多い。各ブランドがしのぎを削る中、オープンして4年の新しいお店「久遠チョコレート」は和の食材を生かしたおいしさとおしゃれなビジュアルで人気が広がっている。百貨店で開かれているチョコレートの祭典でも、国内外の150ブランドのベスト30に入るほどだ。

味とビジュアル以外にも、このお店には大きな特徴がある。実は、障害ある人たちが作っているブランドなのである。

ジャーナリストのなかのかおりさんは、新聞記者時代から障害者の就労について取材を続けている。注目を集めている久遠チョコレートもその一つ。今では「障害者のお店」を超えたフランチャイズが展開されているのだ。その理由を探しに、なかのさんが1月に横浜店を訪ねた。

 

できる人ができることをやる

私鉄を乗り継ぎ、横浜市の妙蓮寺駅を降りて少し歩く。急行は止まらない駅だが、落ち着いた住宅街が広がる地域らしい。ここに、久遠チョコレートの横浜店がある。小さな店舗でも細長く奥行きがあり、ユニフォームを着て作業している様子が見えた。

清潔でセンスのいいお店は地元にも愛されている 写真/なかのかおり

店頭には、人気のチョコレート「テリーヌ」が並んでいる。チョコレートの中にドライフルーツやナッツを入れて固めたものをスライスしてあり、断面が美しい。種類もいろいろで、あられやほうじ茶、ユズなど和のテイストも。抹茶やイチゴのチョコレートは色がきれいだ。

好きなテリーヌを選んでおしゃれなパッケージに入れられるので、お土産にいい。私も購入し、お世話になった人にプレゼントした。自分でも一つ、仕事の合間に味わった。

店長の山本幸代さんは、チョコレートがおいしいのは当たり前。ここはママさんや社員、障害のある人、いろいろな人が働いていて、できる人ができることをやる店です。障害のある人と一緒に働くと、素で生きていて無駄な鎧がないんですよ。私も別の業界で働いていましたが、健常者と呼ばれる人たちは、せっつき合いが大変ですよね」と話す。

障害者、フルタイム雇用

久遠チョコレートは、愛知県豊橋市で始まった障害者のパン工房「ラ・バルカ」が始まり。トップショコラティエとの出会いからチョコレートを作ることになり、京都や豊橋に続いて2015年、横浜店をオープンしたという。

横浜店では精神の障害があるスタッフが1人、フルタイムで働き、社会保険にも入っている。私が訪ねた時は、体調が悪くてお休みだったので、別のスタッフの作業を見せてもらった。手作業でチョコレートを溶かし、容器に流し込み、ドライフルーツをのせる。

プロのレシピを忠実に守る 写真/なかのかおり

山本さんによると、チョコレート作りは狭いスペースでもできる。テーブル、ドライヤーにヘラ、温められる釜、温度計があればいい。チョコレートを溶かす作業「テンパリング」が大事で、障害あるスタッフはその勘がいいという。プロが考えたレシピに沿って、デザインの見本を見ながらフルーツを並べるので、難しい作業ではないそうだ。

「カッコつけたチョコレート屋なんですよ」と山本さんは言う。主なお客さんは、近所の人たち。おいしいチョコレートのリピーターになり、実は障害あるスタッフが作るブランドと知る。

障害を前面に出さずに、物語は後からついてくるというのが、山本さんたちの誇りだ。「お花やワインと同じように、チョコレートは人を幸せにするもの。わかりやすいし、もらって嬉しいでしょう」。バレンタインデーまで1年で一番、忙しい日々が続く。

「障害があるから安い賃金」を変えたくて

久遠チョコレートを始めた「ラ・バルカ」(一般社団法人、愛知県豊橋市)の代表・夏目浩次さんに成り立ちを聞いた。

夏目さんは以前、都市計画のコンサルタントとして会社に勤めていた。主に駅のバリアフリーを手がけ、障害ある人たちに関わる仕事だった。「とりあえずエレベーターを作らないと、という視点でした。もっと丁寧に計画したくても、上司に『理想通りにできなくても仕方ない。まず仕事を覚えて』と言われて悶々としていました」

そんな時、障害者のベーカリーカフェを運営するヤマト運輸の二代目・小倉昌男さんの本を読んで衝撃を受けた夏目さんは、休日に豊橋周辺の作業所を訪ねるようになった。障害者が毎日、通っても、工賃が月に3千円~4千円と聞いて驚いた。

施設の人から「これしか払えなくても、できる仕事も限られているし、福祉の仕組みで仕方ないんです」と言われて、自分がいつも仕事で感じていた「仕方ない」とリンクし、変えたいとスイッチが入った。

障害があるから賃金が安くても仕方ない、というのはおかしい。仕方ないでは発展しない

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