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老衰で亡くなる人の数、日本一「最期は自宅で」を叶えるあの街の秘密

茅ヶ崎で考える、幸福な死について
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この住み心地のよさは、「住民の定着率の高さ」として現れる。20年以上同市に住んでいる人が7割近いが、これは非常に高い数値だ。

細い道も健康の秘密

元会社員の77歳の男性が言う。

「若い頃は、一時期東京に住みましたが、結局戻ってきて50年以上この街に住んでいます。東京方面から茅ヶ崎に帰ってきて駅に降り立つと、潮の香りがして心からホッとするんです。

サイクリングや散歩には最適ですし、地物のマナガツオやウルメイワシ、サンマの干物もおいしい。長く住んでいるから馴染みの小料理屋や居酒屋で人間関係もしっかりできています。もうここから動くことは考えられません」

 

時間をかけて培われた近隣の付き合いは、高齢者の気持ちにハリを与える。在宅医療や介護が必要となった際には、相互に助け合うための大きな財産となるだろう。これも自宅で安らかに息を引き取る老衰死に繋がる要素と言える。

老衰死を遂げるためには、ある程度の健康も必要だ。大きな病気をせず、肉体の衰えとともに枯れるように逝く、理想的な「ピンピンコロリ」。

実は、茅ヶ崎には市民の健康を良好に保つ秘密がある。それが「自転車」。市内でカラオケサークルを主宰している68歳の女性が言う。

「この街は北西部の新興住宅地を除いて細い道がうねうねしている場所がほとんど。戦時中に空襲を受けなかったせいで再開発ができなかったからみたい。だから車を運転するのが難しくて、自転車を利用する人が多い。

同世代の人もそうです。みんな自転車を使うものだから、昔は駅前の駐輪場に自転車が溢れてひどい状態だったけど、最近は整備されて使いやすくなりましたね」

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同市は、自転車利用者の多い中国になぞらえて「日本の北京」と言われることもあるほどだ。1世帯あたりの保有台数も2.38台と多い。

しかし、それがどう健康に影響するのか。たかが自転車と見くびってはいけない。

グラスゴー大学の研究によれば、公共交通機関や自動車で通勤する人に比べ、自転車利用者のほうが、がん発症リスクは45%、心臓病リスクは46%、原因にかかわらず早死にのリスクは41%低い。自転車が茅ヶ崎市民の健康を支えている側面は確実にある。

自転車だけではない。同市の北東部、小高い山になった「茅ヶ崎里山公園」へと向かう道には非常に坂が多いが、これも重要な要素かもしれない。「長寿の街」に坂が多いことは昔から知られている。世界一の「長寿地域」香港も坂が多い。

地理、風土、自治体の取り組み――様々な要素が、茅ヶ崎の老衰死を増やしている。多死社会を迎える日本社会が、この街から学べることは多い。

「週刊現代」2018年2月10日号より

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