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世界一の教育国・オランダが実践する「まったく新しい小学校担任制」

これなら「担任ハズレ」が生まれない
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小学校でまず驚いたこと

「娘さんが転入するクラスは、月曜日と火曜日がA先生、水曜日から金曜日がB先生の受け持ちになります。どちらも素晴らしい先生なので、きっとすぐ慣れますよ」

筆者の娘が移民のためのオランダ語補習校から一般の小学校に転入するとき、校長先生は娘のクラスに複数の担任の教師がいるのだと教えてくれた。オランダはワークシェアリング(またはジョブシェアリングやワーキングシェア)という、仕事を雇用者同士で分け合うことで各々の労働時間を短くするシステムを積極的に推進してきた国。そのシステムは学校の先生たちの仕事にまで浸透してきているのだ。

当時の筆者は「これが噂に聞くワークシェアリングか」というくらいに受け止めていたが、娘の転入から数週間後に、あることに気が付いた。B先生が担当するはずの週の後半の水曜日でも、前半担当のA先生が学校に来ていたのだ。しかし奇妙なことに、娘のクラスではなく別のクラスの生徒たちとあいさつを交わしている。

疑問に感じた筆者が娘にそのことをつぶやくと、彼女は意外な言葉を口にした。

「A先生は、水曜日から金曜日も学校に来てるよ。でもその日は、うちのクラスじゃなくて隣の2組を教えているんだよ」

この言葉に筆者は、頭を殴られたほどの衝撃を受けた。

月曜日から金曜日まで同じクラスを受け持つこともできるのに、あえて複数のクラスを受け持つ。つまり、あえて生徒たちに複数の教師をあてがっているということだ。

そしてその複数担任制の恩恵を、筆者自身も後に受けることになる。

そんな奥深い、オランダの「小学校教師」という職業について詳しく見ていきたい。

ユニセフで「世界一の教育」と公表されたオランダに住むライターの倉田直子さん。なにをもって「世界一」といえるのか? という短期集中連載記事の第一回は、オランダの教育費無償の事実と仕組みを、第二回の記事では飛び級と留年が当たり前で「落ちこぼれ」のないシステムをお伝えした。今回は日本でよく問題になる「担任制」について、驚きの違いをお伝えする。

日本で起こった「ひとり担任」の悲劇

日本の小学校は、「副担任がつく」場合はあるにせよ、基本は「ひとり担任制」。「当たり」であれば子どもは楽しく学ぶことができるが、「外れ」で相性が合わないと切ないことになる。そして、副担任がいるとしても、成績表は担任教師ひとりでつけるため、その担任教師と相性が合わずに嫌われた場合、悲しいことも起こりうる。

筆者が耳にした、実際に日本で都内にある公立小学校であった話を紹介したい。

ある男の子は有名進学中学に合格する頭脳の持ち主。偏差値65ある中学入試の算数のテストで満点だったこともある。学校の算数テストもほぼ100点ばかりで、算数は4年生までずっと一番良かった。

しかし5年生のときに新しく赴任した教師と折合いが悪くなり、成績が全体的に下がった。算数ひとつとっても成績表では「理解力」「計算力」など複数に分かれて評価される。その数項目が「まあまあできる」となっていた。テストで毎回100点なのになぜか? 驚いた親が問い合わせたところ、担任教師から返されたのは「授業態度なども関係しますから」というあいまいな答えだった。ちなみに別のクラスメイトに話を聞いても、その男の子の授業態度は4年生のときから変わっていない。

ほぼテストが100点なのに「論理的に考えている」が「よくできる」とならないのは不思議に思って当然だ。Photo by iStock

1学期で成績が全体的に下降し、2学期には生活態度までも下がった。それまでもすべてが「良い」ではなかったにせよ、「良い」と「だいたいよい」だったものが、すべてにおいて「だいたいよい」と「もう少し」になっていたのだ。生活態度は前と変わっていなかったのに、である。テストもできず、授業を妨害するなどして成績が下がるのなら理解もできるが、理解しがたいことだった。

そこで改めて「生活態度が悪いのなら具体的にどう悪いのかを教えてほしい」と問い合わせたところ、その教師は男の子がやったと思われる「悪さ」を羅列したリストまで作ってきた。しかし書かれていた具体例のほとんどは、男の子は担任教師から注意されたことがないし、事実無根のものも含まれていた。身に覚えのある事柄についても、「被害者」の子にとっては取るに足らない日常の出来事だったのだ。

しかも担任教師は、男の子のクラブ活動記録も確認せず、成績表に男の子が入ったことのないクラブ活動の名前を書いていた。

この教師はこの生徒以外にも二人の男の子もターゲットにしていて、些細なことでも彼らに怒鳴り、その男の子たちもさらに反発する悪循環になった。怒鳴り声が怖くて、そのクラスの別の子が不登校になってしまったほどだ。しかもこの教師は、保護者たちの猛反発にもかかわらず6年生も担任継続となったのだという。

 

ちなみに、成績を下げられた子とターゲットになった子のひとりは公立中学受験を諦めた。小学校の内申点は、多くの中学受験に関係する。いわば、担任教師が一人の場合、そしてその人に嫌われてしまって「事実とはずれた成績」をつけられた場合は、目も当てられない。「当たり」「外れ」だけでは済まされなくなる。先生に気に入られなくなっては困ると、意見があったとしても言えなくなる親は少なくない。

逆に言えば、担任教師にとっても一人ですべてを見なければならない責任がかかるということでもある。経済協力開発機構(OECD)が2017年に発表したデータによると、日本の公立の小学校から高校までの教員の労働時間は加盟国中で最も長いレベルだったという。

2015年の日本の公立学校教員の法定労働時間は、年間1891時間で、これは加盟国の平均より200時間以上も多い。しかも中学校教員で見ると4番目に長いのだ。担任教師ひとりにそれだけの負担のすべてがかかるというのは、健全ではないのではないだろうか。

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