郵政の「国策会社化」は
国鉄、JAL型の破綻を繰り返す

ユニバーサルサービスの負担を
国民に押しつけるな

 鳩山由紀夫連立政権は4月30日、小泉郵政民営化を見直す「郵政改革関連法案」を閣議決定した。現在のところ、5月13日にも衆議院本会議で提案理由の説明を行い、同法案の国会審議に入る構えをみせている。

 しかし、同法案は、本来は独占企業を律するための政策哲学をすり替えて用い、日本郵政に特権を付与することを可能にするという支離滅裂な内容だ。

 背後には、現政権・連立与党に便利な集票マシーンとして、日本郵政を末永く活用しようとする意図が透けてみえる。

 こうした法案は、日本郵政にモラルハザードをもたらすリスクがある。特権を享受しようとして、政治の言いなりになって経営の合理性を無視し、最後は破たんした国鉄や日本航空(JAL)の轍を踏む懸念が小さくないのである。

 「郵政改革関連法案」は、郵政グループの経営基盤の強化策を盛り込んだ「郵政改革法案」、5年前に成立した日本郵政株式会社法を手直しする「日本郵政法改正案」、そして、その他の関連法規の字句修正などをまとめて行う「関係法律の整備等に関する法律案」の3本立てとなっている。

 筆者の見るところ、何より大きなポイントは、親会社の日本郵政株式会社に対し、ゆうちょ銀行とかんぽ生命のそれぞれ3分の1超の株式を保有したうえで、両社の金融商品・サービスをあまねく全国で提供する義務(ユニバーサルサービス義務)を課すことにした点にある。

 本来、ユニバーサルサービス義務は、独占企業を規制する論理に過ぎない。1985年に分割された巨大通信会社の米AT&Tが、それまで、その分割に抵抗するために用いたのが原点とされる。

 すなわち、独占利潤を不採算地域でのサービスの提供・維持の費用に充てるので、AT&Tの市場独占を容認してほしいという理屈だ。さもないと、新規参入事業者は儲かり易い地域だけで事業を展開するため、AT&Tが不採算地域のコストを賄えなくなると主張したのだった。

 この論理は、日本でも旧郵政省の所管分野の一部に導入された。手紙・はがきの「信書」の国営独占が長く続いた郵便、電電公社時代の通信、そして特権的な受信料の徴収を国内で唯一認められているNHK(放送)の3つが、その分野だ。

 このうち、競争が進んだ通信では、ユニバーサルサービス制度の見直しが進み、現在は、新規参入した事業者のユーザーも含めて、1電話番号当たり毎月8円の負担を全ユーザーにしてもらい、僻地の固定電話サービスを維持する仕組みに衣替えしている。

 さらに、光ファイバーを使った超高速ブロードバンド時代に向けて、再度の見直しも大きな課題とされている。

コスト負担を国民に押しつけ

 ところが、郵政改革法案は、この独占事業者を規制する政策哲学を、すでに競争が活発に行われている金融分野に、ライバル企業との何の調整や議論も行わないまま、いきなり持ち込んだ。しかも、そのコスト負担を、国が負うべきものだと規定するすり替えも行った。

 そのうえで、いきなり、ユニバーサルサービスの提供を、国が日本郵政に肩代わりさせることにしたのが、同法案だ。補足すると、日本郵政が代行するのに相応しい事業者かどうかの検証や、他に肩代わりを希望する事業者が存在するかどうかなどの調査手続きを何もしないまま、いきなり、日本郵政を指名するという乱暴極まりない立法をしたのである。

 さらに言えば、政策的な論理をすり替えて日本郵政にユニバーサルサービス義務を課すことによって、政府は日本郵政の経営基盤の強化を支援する役割を背負い込む形になった。

 実際、法案には、政府に日本郵政株式会社(親会社)の発行済み株式の3分の1超の保有を義務付けたばかりか、
(1)日本郵政による郵便局会社と郵便事業会社の統合を容認する、
(2)現在は認可制である日本郵政グループの金融新分野への参入規制を届け出制に緩和する、
(3)政令の改正も行い、郵便貯金と簡易保険の限度額を拡大する
  ―ことなどが盛り込まれた。

 はっきり言って、ユニバーサルサービスの政策的な意味合いをすり替えることによって、日本郵政にどっさりアメを与えることを可能にしたのである。

 この法案は、小泉グループが指摘してきたような「国営の公社への回帰」とまでは言い難いかもしれない。

 しかし、日本郵政の国策会社化を標榜する法案となった感は否めない。

 というのは、法律で明確に、金融のユニバーサルサービスの提供という国策を日本郵政に負わせることにしたからだけではない。

 他にも、法案の作成・提出のいわば交換条件として、日本郵政は亀井静香郵政改革担当大臣が率いる国民新党の要求に屈して、6万5000人の非正規社員の正社員化、郵便局の8割を超す物品の地元調達化などを受け入れる方針を打ち出しているからだ。

 その実態は、単なる国策会社化にとどまらず、7月の参議院議員選挙をにらんだ集票活動と言っても過言でないだろう。

 ここで想起すべきは、かつて様々な見返り・特権への期待から政治的な要求に応じて、不採算な路線を増やした日本国有鉄道(国鉄)や日本航空(JAL)が、最終的に破たんしたという歴史的な事実である。

 結局のところ、この種の国策会社化は経営の自己責任原則を歪め、モラルハザードを招くものなのである。

 しかし、衆参両院で多数を占める連立政権・与党に、丁寧な国会審議をやる気はないらしい。

 13日に衆議院本会議で、郵政改革関連法案の提案説明をしたあとは、じっくり審議をできる「特別委員会方式」を採る考えはないという。衆議院の総務委員会で週2回の審議を2週間程度、同じく参議院の総務委員会でも同程度の審議を行うだけでお茶を濁し、会期末の6月半ばまでに賛成多数で押し切ってしまう構えをみせているのだ。

 ちなみに、この政府・与党の作戦通りにことが進むと、衆、参両院の審議時間はそれぞれ、24時間程度にとどまることになる。衆議院で約109時間、参議院で80時間を費やした、5年前の審議とは対照的である。

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