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社会保障・雇用・労働

「公的年金」結局、何歳からもらうのが得か損か

余命と老後収入のマトリックスで考える

年金財政が苦しいからの制度変更ではない

1月に流れた以下の報道記事に目がとまった人は少なくないだろう。

「政府は公的年金の受け取りを始める年齢について、受給者の選択で70歳超に先送りできる制度の検討に入った。年金の支給開始年齢を遅らせた人は毎月の受給額が増える制度を拡充し、70歳超を選んだ場合はさらに積み増す。高齢化の一層の進展に備え、定年延長など元気な高齢者がより働ける仕組みづくりも進める方針だ。2020年中にも関連法改正案の国会提出を目指す」(『日本経済新聞』2018年1月17日付)

まず日本における公的年金とは次の3つである。自営業の人などを対象にした「国民年金」、厚生年金保険の適用を受ける企業に勤務する従業員を対象にした「厚生年金」、公務員や私立学校の教職員を対象にした「共済年金」である。

これに対して企業ごとの企業年金、確定拠出年金、個人年金などは私的年金と呼ばれている。

また、厚生年金は「2階建て」と呼ばれており、1階部分の基礎年金部分(各公的年金共通)と2階部分の報酬比例部分に分かれている。さらに私的年金としての企業年金などが3階部分としてのる構造になっており、一般に大企業では全部含めると比較的手厚い給付になっている。

国民年金の方は基礎年金部分だけなので、それ以上のものは私的年金として契約する必要がある。

この報道記事を読んで、「年金財政が苦しくなって来たので支給開始年齢を遅らすことで総支給額を減らすことを目論んでいるのか」と思った人もいるかもしれないが、それは勘違いだ。

 

年金受給開始を遅らせると年間受給額が増える

現在の支給開始年齢は基本的に65歳であるが、選択すれば60歳まで開始を早めることができる。また70歳まで受給開始を遅らせることもできる。受給開始を1年遅らせると年間受給額が8.4%増え、逆に早めた場合には8.4%減る仕組みになっている。

報道記事は70歳超えからの受給開始も選択可能にすることを政府が検討しているという内容だ。その場合、受給開始を遅らせた場合の年間受取額の増加率も現行の1年8.4%よりも高くすることが検討されているという。

さて、ここで頭の体操である。現行制度の下で何歳まで生きるかを想定した場合、何歳から受け取れば生涯受給総額が最大になるだろうか。

基礎年金部分についてそれを一覧表にした(表1)。横軸が受給開始年齢とその年齢での年間受給額(青カラー)である。縦軸は死去する年齢とその時点までの累計受給額を示している。

見て分かる通り、長く生きるほど受給開始年齢を遅くする方が生涯累計額は大きくなる。

各生涯年齢で最も累積受給額が大きくなる部分を黄色カラーした。現行の制度下で70歳での受給開始を選んだ場合は、満85歳まで生きると累計額は1770万円となり、65歳で受給開始を選択した人の1636万円より134万円多くなる。 

2016年の厚生労働省の簡易生命表によると、65歳の男性の平均余命は19.6年(平均死亡年齢84.6歳)、女性は24.4歳(平均死亡年齢89.4歳)である。

男性の場合は70歳まで受給開始を遅らせて年間の受け取りを最大にしても、平均的には約85歳で死ぬことを前提に設計されているはずなので、胴元である公的年金システムに予定外の支払い超過が生じるわけではない。平均余命が少し長い女性の場合は若干有利といえよう。

「将来のインフレの可能性などを考えるとどうなるのか」と思う人もいるだろう。

公的年金の給付については物価や賃金の上昇率を反映する仕組みが組み込まれているので原理的には耐インフレ保障である(実際には2004年の年金制度改正で賃金や物価の改定率を調整して緩やかに年金の給付水準を調整するマクロ経済スライドと呼ばれる仕組みで運用されている)。

あるいは「日本は少子高齢化で年金受給者に比べて支払いを負担する現役層が減り続け、公的年金は将来破綻するか、受給額の大幅減額が不可避だから、早めに受け取っておく方が良い」と思う人も少なくない様だ。しかしながら、少子高齢化という長期的な人口動態を織り込んだ上で公的年金の長期収支は計算されている。

昨今の日本での「公的年金危機論」は誇張されている。この点については高橋洋一氏が「『年金問題』は嘘ばかり~ダマされて損をしないための必須知識~」の中で、政官民のそれぞれの思惑で「公的年金危機」が過剰に喧伝されている事情について述べている。私も高橋氏の主張にほぼ同意できる。気になる方は読まれたら良いだろう。