介護経験のある人には当たり前のことかもしれないが、大人用おむつは子供用おむつよりも市場が大きく、1600億円近くもある。その背景にあるのは、高齢者の「漏らしたくない」という純粋な思いだ。年を重ねていくと、誰しも排泄に不安を覚える。特にトイレに行くのも一苦労の場合、介護する側も大変だ。

「漏らしたくない」――。そんな誰もが思う純粋な問題をIoT技術を用いて解決したのが、「DFree」という排泄予知デバイスだ。

これは膀胱に溜まった尿の量を検出し、適切なトイレのタイミングを知らせてくれる。このデバイスのおかげで「いつトイレに行けばいいのか」がわかり、介護施設からは好評を得ているそうだ。「DFree」を開発したトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社社長の中西敦士氏に話を聞いた。

「DFree」本体。センサーのある小さい方を下腹部に付け、電池・通信・お知らせ機能の本体はポッケにでも入れておく。 Photo by Riki Kashiwabara

取材・文/平原悟

最悪の体験

弊社は排泄のタイミングを予知するウェアラブルデバイス「DFree」を開発・運営しています。医者でもなければ介護の経験もない私がなぜをDFree開発したのか。それは、「大量のうんこを漏らした」という悲惨な体験がきっかけでした。

あれは5年前の2013年の夏。最先端のビジネスを学ぶため米国カリフォルニア大学バークレー校に留学していた時のことです。

それまで住んでいたアパートを追い出された私は、その日新しいホームステイ先への引っ越し作業をしていました。引っ越しと言ってもたいした荷物もないし歩いて30分程度の距離なので、自分で荷物抱えて往復するようなものです。まず1回目で洋服類を運び入れ、2回目の荷物を運んでいた途中に、私は猛烈な便意に襲われたのです。

「これはかなりヤバいな」と感じたものの近くに公衆トイレはないし、当時の私はホームレスと言っても通るほど小汚い格好でしたから「トイレを貸してください」と見ず知らずの家に飛び込むのも無理。

「こうなったら走るしかない」引っ越し先でトイレに行こうと頑張ったのですが…道半ばにして、僕の下半身を守っていた防波堤はもろくも決壊。無残にも私のズボンの中はうんこで満たされてしまったのです。

この状態で新居に行くわけにはいかず、元のアパートに戻ることにしたのですが、あのときの屈辱と、周囲からの奇異なものを見る目は、今も忘れられません。

しかし…この悪夢のような経験が、私の人生を大きく変えまたのです。お漏らしが人の尊厳をいかに傷つけるか身をもって知った私は、二度と同じ目に遭わない方法をひたすら考えました。

「排泄物を体内で全部水に変えることは出来ないか」「自動でビニールの膜に包まれて出てくるようにできないか」……もちろん、今の科学ではそれらの実現は不可能です。しかし、諦めの悪い私はその後も思索を続け、ようやくある結論に達しました。

「突然便意に襲われて、トイレに間に合わないから漏れるのだ。だとしたら、あと何分で出るかさえわかれば問題は解決できるのではないか」

こうしてついに私はDFreeのコンセプトにたどり着いたのです。

DFreeを開発するトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社社長の中西敦士氏 Photo by Riki Kashiwabara

排泄ケアは日本の大問題

アイデアは思いついたものの、この時点ではビジネスになる確信はありませんでした。ただ、うんこ事件の数ヵ月後に、ネットのニュースで大人用のおむつの出荷量が子供用を上回ったという記事を見て、困っている人が大勢いることを直感。

調べてみると介護の現場でも最もつらいのが排泄ケアだということもわかり、以前から会社をやるなら社会が抱える深刻な問題を解決するビジネスをやりたいという気持ちが強かったので、これだな、と思ったのを覚えています。

問題は、どうやって排泄を予測するかです。素人考えですが「胎児の様子を超音波で確認できるのだから、排泄物だってできるのではないか」と思いつき、医者の兄に相談しました。すると「小児の腸内の様子を超音波診断装置で見ることがある」と言うのです。これは、大きな前進でした。

その後、シリコンバレーのベンチャーキャピタルでインターンをしていた時に排泄予知のアイデアを披露すると「今まで聞いたことがない」と興味をもってもらえましたし、シリコンバレーでいくつも会社を成功させている投資家の方にも、高く評価をいただきました。プロのお墨付きをもらえたことも大きな自信になりました。

しかも運が良いことに、私がこのサービス思いついたのが30歳くらいでしたが、たまたま今後の進路に悩んでいる昔の同級生がいて、声をかけたら協力を申し出てくれました。その中にハードウエア開発の知見を持つメンバーもいたこともあり、2015年1月には試作機第1号を完成させることができたのです。

同年4月にはクラウドファンディングで開発資金を募ったところ、目標到達金額が1200万円という高額にもかかわらず、あっという間に達成することができました。介護施設からもまとまった出資をいただき、期待の大きさに驚くと同時に排泄問題の深刻さを改めて痛感しました。

それだけに2015年の後半に、ようやく実用レベルの試作機が完成した時の喜びもひとしおでしたね。現在はデータの取りやすい膀胱にフォーカスし、「排尿」のタイミングを予知するデバイスになっています。便の状態を把握するシステムも開発中でして、将来的には排泄のすべてを予知できるようになります。