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毎年100人を看取る医師が明かす「憧れた最期・嫌だと思った最期」

上手に死ぬのは健康長寿より難しい
東京・世田谷で在宅医療を行い、医師9名(常勤5名・非常勤4名)で約420人の患者をケアしている、桜新町アーバンクリニックの院長・遠矢純一郎医師。同クリニックでは終末期医療を受けている患者も多く、年間120人前後を「看取る」という。そんなベテラン在宅医に、これまで見つめ続けてきた人々の「最期の迎え方」を教えてもらった。

自然に枯れるように

病院での入院をやめ、自宅に戻ることで症状が楽になる患者さんも数多くいらっしゃいます。

世田谷区在住の80代の方で老老介護の例がありました。お父様ががんでしたが、病院嫌いで自宅に戻った。ただ、奥様には若干の認知症があって、同じく80代。二人きりでの生活に奥様は当初、大きな不安を感じていました。

しかし、娘さんが支えつつ、一緒に看ていくことで次第に奥様も落ち着いてこられた。

お父様は入院中、2時間おきに痰の吸入が必要でした。点滴は血管に液体を入れるわけですから、量が合わなければ、痰が増えたり、体がむくんだりします。

お父様も病院は嫌だと言っていたので、「きっと注射や点滴は望んでいないでしょうから、自然に経過を見ていきましょう」という話をしました。

ご本人も「今のほうが病院にいるときより楽だ」と話していましたし、ご家族も同じように感じていました。結果として、お父様は自然に枯れるように自宅で看取ることができました。

この場合、在宅医が何かをしたわけではなく、何もしなくなったということがよかったわけです。引き算の考えが重要なのです。

 

私自身、かつては病院の呼吸器科医として看取りを経験してきました。ただ、病院では亡くなる直前まで「治療」をしますから、結果として最期まで苦しむケースも多い。こうした終末期医療に疑問を持ち、'00年から在宅医療に携わっています。

こんなケースもあります。65歳で末期がんと診断され、ご本人も最期は自宅で迎えたいと納得された方がいらっしゃいました。

経営者の方で、死ぬ前に自分の手で事業の整理と財産分与を片付けたいとのことでした。飲み薬の抗がん剤を処方されていましたが、ほとんど食事が摂れない状態で、薬を飲むことすら難しくなりました。

そこで「この抗がん剤はやめましょう」とアドバイスをしたところ、そこから急速に体調がよくなってご飯が食べられるようになったのです。

抗がん剤には「食欲不振」という副作用があることが多く、ましてや衰弱した体に投与していたので、相当ダメージが大きかったんだと思います。

あのまま、抗がん剤を飲み続けていたら、正直、2~3週間もたなかったと思います。抗がん剤をやめてからすでに2ヵ月が経っていますが、今も階段の昇り降りができるほどの状態です。

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がんは緩和ケアのやり方が確立している部分もありますし、終末期は似た経過をたどるから、比較的看取りやすい。

一方、心不全、呼吸不全、腎不全など、慢性の病気の患者は年単位でゆっくりと弱っていく。「急性増悪」と言って、風邪などをきっかけに急変が起きます。

その後、入退院を繰り返し、次第に症状が悪くなっていく。そこで、もう入院は嫌だと、在宅医療に切り替える方も少なからずいます。

ところが、最後の入院をいつにするか、それが本当に難しい。もう一度、入院すれば、まだよくなるかもしれない。一つの目安となるのは、年齢でしょうか。

たいてい80歳を過ぎれば、本人も家族も、十分に生きたと納得できるのですが、その前だと私たちも判断を迷います。

認知症の場合も、終末期の医療は長期化することが多い。手足が動くので、徘徊したり、事故を起こしたりなど、家族も苦労することが少なくありません。認知症はスパンの長い病気で、発症から亡くなるまで、15年くらいと言われています。

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