Photo by iStock

売れっ子ブックデザイナー・鈴木成一が手がけた「記憶に残る10冊」

すべては「面白がること」から始まった

文芸装丁家の仲間入りを果たした『白夜行』

床屋と読書が嫌いな子供でした。要するに、じっとしているのが苦手。姉は大の読書家でしたが、僕は音楽や美術、アート系に興味を持つようになっていった。結果的に、姉の文学好きと僕の嗜好、二つがうまく融合して、装丁の仕事に結びついたのかなと思いますね。

この仕事を始めて約30年、おかげさまで1万冊以上の本を手がけました。ざっくり計算すると一日1冊。だから仕事以外の本を読んでいる暇がない(笑)。

ここでは、自分の仕事の中から、転換点となったり、記憶に残る10冊を挙げました。そのため、内容よりも、どうしても装丁を基準とした選書になっています。

仕事を始めた頃は、ビジネス書や実用書の依頼が多かったんです。だけど僕は文芸もやりたかった。『白夜行』によって、文芸の装丁家への仲間入りを果たせたような気がしましたね。

圧倒的なスケールのミステリで、大変売れましたから。以来、文芸の仕事もたくさんいただくようになり、その中でも『私の男』は満足のいく装丁ができた。出版後、直木賞を受賞し、自信にもなりました。

読んだ時、これはヤバイ作品だなとびっくりしたんです。背徳的だし、黒いエネルギーに満ちている。で、思い浮かべたのがマルレーネ・デュマスという南アフリカ共和国出身の画家の絵でした。ギャラリーにかけあって借用許可が出たときは狂喜しましたね。これでいけると確信しました。

装丁の選択肢は無数にあるんです。日頃からできる範囲で展覧会に行ったり、画集や写真集を見たりして、イメージを集めるようにしています。写真の撮り下ろし、イラストの描き下ろしも多い。

村上龍さんの『半島を出よ』では、小説に出てくる猛毒の〈ヤドクガエル〉を撮影しました。この時まで知りませんでしたが、蛙を専門に扱っているペットショップがあるんです。そこで撮影させてもらって、忍び寄るイメージで表紙に配置した。

背景に敷いたのは、小説の舞台となる福岡の衛星写真ですね。書籍の予算って高が知れてるんですよ。その中でできることを最大限やって上手くいった例だと思います。

 

疾走』は、装丁のやり方としては『私の男』に似ていて、ロンドン在住のアメリカ人アーティスト、フィル・ヘイルの画集から借りました。この時悩んだのは、主人公の背負った過酷な宿命をどう表現するか。土地から追われて少年が逃亡する話なのですが、そうした具体的・状況的な説明ではない、もっと上位の、差し迫った空気そのものを表現できないかと。

存在論に関わるような凄みを出したいと考えた末に思い至ったのが、ヘイルの絵でした。それぞれの本にとってどのような装丁の表現がふさわしいか、その答えは、読むことでしか得られません。読むことで自由になり、発想の飛躍ができるんですね。