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企業・経営

ミスターミニット、32歳の社長が考える「逆張り人生」の経営術

迫俊亮社長に聞く

靴の修理、合鍵作製で知られる「ミスターミニット」は、1957年にベルギーで誕生した店だ。その後、国際的ブランドに成長し、アジア・太平洋地域での活動を、今回の取材先、ミニット・アジア・パシフィック社が行っている。

この企業、数年前まで利益は右肩下がりだったが、'14年に29歳の若さで迫俊亮氏(現在32歳)が社長に就任、その後、青山商事が買収すると業績は一気に上向いたという。その裏側を聞いた。

ミスターミニットの迫俊亮社長

「私はあなたを信頼しません」と言われて

【貧すれば】

ミスターミニットは手仕事のサービスのコンビニです。靴磨き、靴のサイズ調整はもちろん、時計の電池交換、ハンコ作製、スマホ修理サービスも展開し、最近はクリーニングの取り次ぎサービスにも着手しました。

実は私が社長に就任する以前から新サービスにトライはしていたのですが、一つも上手く行きませんでした。原因は、売り上げ減によりコスト削減に迫られ、人員を減らしていたからです。人がいない状況でメニューを増やしても、お客様をお待たせし、店員にもストレスを与えるだけ。そこで私は、社長就任後すぐ、ファンドに「これはコストではなく投資です」と伝え、人員を増やしたのです。

すると、最初の1年は利益が減ったものの、新サービスを展開する余裕が生まれ、長期的には大きな業績向上に繋がりました。プロ経営者は短期間で結果を出すためコストを削減することが多いのですが、私は逆の方法をとりました。

【現場】

社長就任時に聞いた社員の言葉が忘れられません。「業績は10年も下落し続け、その間、外から来た社長はみんな『改革しよう!』と言ったけど何も変わらなかった。だから私はあなたを信頼しません」と言われたのです。この率直な言葉のおかげで、私は「まず信頼を勝ち取らなければ」と考えることができました。

具体的な方法は「自分がやりたいことを押しつけない」ことと「現場は問題がわかっているはずだからそれを聞く」こと。職人が「夏はお客様も私も暑くて」と言えば、すぐエリアマネージャーに伝えて経費で扇風機を買い、「靴の修理にこんな部材を使いたい」と聞けば、ヨーロッパ出張の折に部材のサンプルを鞄に詰め、現場に持って帰りました。経営の優先順位などは考えず、しかも要望になるべく早く応える。これで徐々に現場の信頼を得て、次第に組織が前向きになっていったのです。

【青春】

私は高校生の頃「世界の貧困問題、教育問題を解決したい」と考え、米国の大学で社会学者を目指しました。しかしバックパックを背負って世界を放浪するうち、ふと「世界を変えているのは誰だ?」と考えたんです。すぐ「企業だ」と気付き、私は世界を変えられそうな会社としてとりあえず商社を選び、就職試験を受け、内定をもらいました。でも在籍期間は約半年でした。

就職前に少し働いたベンチャーへの思いが募り「いい会社に入りたいのでなく、会社という枠組みを使っていい仕事がしたい」と思い、転職したのです。そしてこの会社で5年ほどビジネスの基本を学んだ頃、転機が訪れました。ファンドで働く友人に「ビジネスで世界を変えたい」と夢を語ったら「ならファンドに入ってプロ経営者になれば」と助言され、面接を受けると傘下の企業である当社を紹介されたのです。

今思うと、世の中が見えていなかった頃の夢や思いはそのまま形にならずとも、徐々に人生を変えていくのだ、と感じます。

【成熟】

当社に入社して変わったのは、飲み会やカラオケに行くようになったこと。まったく参加しないタイプだったのですが、「会社を良くするためにはコミュニケーションが大切」「話すなら相手が望む場で」とビジョンがハッキリしているので、自分の性格は関係なく参加しています。

あとは「自分が、自分が」と自分の成長や活躍ばかり考えることがなくなりました。自分の将来や他人からの評価を気にするより、具体的な「なすべきこと」だけを考え、足りないパーツを埋めていくことに集中したほうが仕事は上手く行く、と感じます。

【職人技】

いま、当社の職人は全店で「お客様の問題は100%解決しよう」という共通認識を持っています。「1時間後の結婚式に履いていきたい」「ロングブーツをショートにしてほしい」など様々なご要望を「メニューにないから」という理由で断りたくありません。そこで、現場にケースバイケースで対応する権限を与えたのです。

もちろん、イレギュラーの修理を行えばクレームになる怖れもあります。しかし実施してみると非常に様々な注文があったにもかかわらず、問題は驚くほど少なかったのです。個人的に、改めて職人の技に敬意を感じますし、お客様の多くが「身近に信頼できる手仕事の職人がいたら便利」とお感じになっていることも想像できます。

私はこれからもこうして、ビジネスを通して世の中をよくしていきます。社会に貢献しているからこそ、お客様からご支持いただけるのですから。

(取材・文/夏目人生法則)

『週刊現代』2018年1月27日号より

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