画/おおさわゆう
医療・健康・食 ライフ

知らなきゃよかった!医者は手術中に、実はこんなことを話している

覆面ドクターのないしょ話

米倉涼子演じる「失敗しない女医」大門未知子が活躍する「ドクターX」はじめ、いまだ医療ドラマの人気は高いが、とある専門病院に勤務するベテラン外科医によれば、「実際の勤務医はあんなかっこよくないし、奇人変人のほうが圧倒的に多い」という。

「へー、じゃあ、どんなへんてこドクターがいるのかぜひ知りたい」と思うのが当然。そこで、外科医であること、決して若くはないこと、電車で通勤していること、そして居酒屋が大好きな庶民派であること以外は一切秘密。それを条件に執筆をOKしていただきました。

正体を隠しているからこそ書ける、診察室のカーテンの向こうの、手術室のドアの向こうの、そして患者が麻酔で眠っている間のお医者さんの赤裸々な姿&病院の外では言えない本音がポロポロ……。

手術中、まさかの「師匠からのダメ出し」

あなたが麻酔で眠っている間、手術室ではどんな会話がなされているのか?

場合によっては、絶対に患者さんには聞かせられないやりとりが行われている場合もある。

以前、知人に頼まれて骨折箇所の整復手術をした。骨折に気づかず、ずれたままくっついてしまった箇所を元に戻してほしいというのだ。

手術の際には事前にミーティングがある。定年退職した恩師がたまに手伝いに来てくれるので、症例のプレゼンテーションを行った。すると恩師がこう言った。

「お前、このケースは無理だよ。受傷からだいぶ時間が経っているじゃないか。これじゃ元に戻らないぞ。どうして外来のときに『これは治りません』と言わなかったんだ? おれ、知らねーぞ」

いざ、手術本番。骨折の整復を試みる。師匠のおっしゃる通り、くっついてしまった骨折部は全く動かなかった。横で恩師がブツブツ言う。

「だからダメだって言っただろう? どうすんだよ、おまえ」

「そんなこと言ったって、知り合いが私を頼って来たんですから、『できません』なんて言えないですよ。先生、手伝ってくださいよ。えいっ! やーっ!」

「おれだったらやらない」

「もう手術は始まってるんですよ。お願いですから手伝ってくださいよ」

「無理だ。あきらめろ」

「そんなことできません。行きます、このまま、えいっ! おりゃーっ!」

渾身の力を込めたら「ポキッ」と音がした。曲がってくっついていた骨が折れて、やっと元の位置に戻った。できた! うまくいった! ほっとした。ふふふ、やればできるじゃないか!

「師匠、どうです? 上手く戻ったじゃないですか!」

ドヤ顔で師匠の顔を覗くと、「たまたまだよ」という呟きと冷笑が返って来た。

結果、手術は成功し、患者さんは無事退院していったが、このケースも、「聞かせられない話」のひとつのパターンだ。

 

医師は黙って手術しているかと思いきや、実はこのようにいろいろな話をしている。

もちろん、まじめに話していることが多い。ほとんどは手術に関する所見を確認し、治療計画を確認しあったり、後輩を指導したりする。

また緊迫した場面では話をする余裕もない。だが、出血や持病などのリスクが少なく、患者さんの全身状態も良く、良性の疾患で毎日のように行って慣れっこになっている手術――こういうときは、気軽におしゃべりがしやすい。

きれいごとを言うわけではないが、私は手術中のおしゃべりは気がひけるのであまりしない。話すとしても、手術や仕事に関することにしている。

手術の前半では難しい操作や多少の出血があるので、術者の体内にはアドレナリンが充満して興奮状態にある。経験と共に、興奮状態にあっても冷静に手術を進められるようになるのである。

ところが、血を見た途端にやたらと興奮するタイプのドクターがいる。予想外の出血があれば誰でも焦るが、大した出血でもないのに血を見た途端に興奮して、助手や看護師を怒鳴り始めるドクターがいるのだ。

「出血止めろ! そこじゃない! 早く! 早く! 何してんだ……お、お前が悪いんだ!」

そんなに慌てなくてもよい場面なのだが、このタイプのドクターは往々にして偉そうにしていたいだけなので、ひたすら「はいはい」と言って、言われた通りに処置すればよい。だいたい、この手の外科医はあまり手術が美しくない。

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手術が山場を越えると、緊張がゆるむ。一般におしゃべりが始まるのはこのタイミングだ。おしゃべりは以下の3つに分類できる。

(1) 真面目な話

(2) 悩み相談

(3) 患者さんに聞かれてはまずいもの

(1)は、学問、手術に関する一般教養についての話だ。これは説明するまでもないだろう。

(2)のケースのおしゃべりは意外と多い。大学病院や大きな総合病院では人の数だけ悩みも多い。人事に不満を持っている者もいる。

まだ若く、がむしゃらに働いていた頃、ある先生の手術の助手に入ったときのこと。

「君、最近どう? いっぱいいっぱいみたいだけど、大丈夫か? 誰にでも好かれようと思わない方がいいぞ」

やさしい心遣いに、手術中にもかかわらず、涙がこぼれそうになったこともある。

若いドクターたちは自分の将来がイメージできないので常に不安をかかえている。

「同級生がどんどん手術をやらせてもらってるのに、僕だけ遅れをとってます。手術に当ててください」

「どうして僕が地方に飛ばされなきゃいけないんですか?」

「あんな准教授、終わってますよね」

などなど。どれも手術中でなくともよい話なのだが。

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