東芝を上場廃止にしなかった事への批判がよほど気になるのだろう。日本取引所自主規制法人の理事長で元金融庁長官だった佐藤隆文氏が、日本経済新聞の1月9日付け13面にある『私見卓見』というコラムに寄稿している。題して「東芝問題と『建設的曖昧さ』」。
佐藤氏は寄稿文で、「規制当局が事案処理において一貫した判断基準を持つことは、公正性や整合性を担保する上で重要だ」としながら、「ただ東芝の上場維持・廃止の判断について、目に見える事象から直ちに結論を予測できるような予見可能性が期待されていたのであれば、難しい注文だと言わざるを得ない」として、「建設的曖昧さ」という概念を持ち出している。
上場企業がどんな問題を起こすと上場廃止になるかは、上場廃止基準に定められている。
債務超過になって1年経っても解消できない場合には問答無用で上場廃止になる。一方で、監査法人が上場企業の決算に「不適正意見」や「意見不表明」などを付した場合のように、「市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると取引所が認めるとき」といった“判断”によって上場廃止になる。
東芝の場合、「特設注意市場銘柄に指定されたにもかかわらず、内部管理体制等について改善がなされなかったと当取引所が認める場合」に該当するかどうかを、佐藤氏が理事長を務める自主規制法人理事会で議論していた。
東芝の決算発表自体が遅れに遅れ、監査法人からは「限定付き適正意見」という上場企業としては極めて異例の意見を付けられ、さらに内部統制については「不適正」という結論が出されていた。そんな状況だったにもかかわらず、管理体制について「相応の改善が認められた」として、指定解除に踏み切ったのだ。
決定した理事会では指定解除に反対する理事もいた。「全会一致のケースがほとんどである理事会では、極めて稀なことでした」と佐藤氏自身が月刊誌への寄稿で認めている。
さらに、その寄稿では東芝の決算になかなか監査意見を出さなかったPwCあらた監査法人を強く批判。「私は、監査法人の意見を無条件で絶対視するのは資本市場のあり方として危険なことだと思っています」として、監査制度そのものに疑問を呈した。